「……誰、この人」
ChatGPTが返してきた推しのセリフを読み返す。画面をスクロールして冒頭に戻り、テーブルにスマホを伏せた。
「大丈夫? 無理しないでね。僕がいるから、何でも言って」
推しは「何でも言って」なんて言わない。笑顔の裏に何か抱えていて、「大丈夫?」と聞くのは相手のほう。公式の推しの優しさは、もっと不器用で、もっと見えにくい場所にあった。
同じ推しを5つの要素に分解してAIに渡し直した。
鷹宮は模造紙を切り終えて、ハサミをペン立てに戻した。刃先の向きを揃えてから。
「……よし。次、看板の文字だな」
窓の外はもう暗い。教室には2人しかいない。
「鷹宮くん、そろそろ帰らないと——」
振り向いた顔が、いつもの笑顔ではなかった。笑っていないだけの、ただの顔。
「……ああ。そうだな」
一瞬だった。次の瞬間にはもう、見慣れた柔らかい微笑みに戻っている。
「ごめん、ぼんやりしてた。帰ろうか」
違うのはプロンプトの構造だけ。この記事では推し設定プロンプトの5項目テンプレートと、アイドル・乙女ゲーム・Vtuberのジャンル別記入例を解説する。
推しが「なんか違う」になる原因——属性の平均値問題
推しの名前と公式プロフィールをAIにそのまま貼り付けると、AIは「属性の平均値」でキャラを生成する。「完璧主義」と書けば完璧主義っぽい平均的なキャラ。「優しい」と書けば優しいっぽい平均値。
推しの「らしさ」は公式設定ではなく行間に滲み出る情報にある。「誰にでも優しい」の裏の「本当は疲れている」。「完璧」の裏の「完璧でいることへの執着」。AIにはこの行間が読めない。だから明示的に書いて渡す。
映画の撮影に例えるとわかりやすい。公式プロフィールはロングショット——遠くから全体を映した画。AIが平均値を返すのは、ロングショットの情報だけで演技させているからだ。推しの「らしさ」が宿るのはクローズアップのほう。ハサミの刃先を揃える手元。笑顔が0.5秒遅れる瞬間。プロンプトの5項目は、AIの「カメラ」をクローズアップに切り替える設計図になる。
夢小説の読者は推しに対して「こう振る舞うはず」という強い期待を持っている。AIが出力する「優しいっぽい平均値」はその期待を正面から裏切る——「この人、推しじゃない」。テンプレートの5項目は、読者が無意識に抱いている推しへの期待を構造化してAIに渡す作業にほかならない。
AI夢小説の推し設定プロンプト——5項目テンプレートと記入例
推しの公式情報を、AIが「演じられる」形に変換する。まずは完成形を見てほしい。
架空の乙女ゲーム「星空のワルツ」の推し、鷹宮 暁(たかみや あきら)。公式プロフィールは「17歳、生徒会長。成績優秀、運動万能。いつも笑顔で誰にでも優しい完璧タイプ」。
■ 口調ルール
- 一人称: 僕(人前)/ 俺(あなたと2人きりのとき。本人無自覚)
- 語尾の癖: 〜だよ、〜かな(人前では柔らかい)
/ 〜だな、〜だろ(2人きりだと断定口調が出る)
- セリフ例:
1. 「うん、大丈夫。任せて」(人前。完璧な笑顔つき)
2. 「……別に。疲れてない」(嘘。目が合わない)
3. 「あんた、まだ帰ってなかったのか」
(あなたに対して。素っ気ないが、声だけ少し安堵している)
- 絶対に使わない言葉:
「助けて」「つらい」「寂しい」。弱さを言語化しない
■ 性格の二面性
- 表の顔: いつも笑顔。頼まれたことは全部引き受ける
- 素の顔: 疲れている。「完璧」を続けることに限界を
感じているが、やめ方がわからない
- 矛盾: 「別に大変じゃない」と言いながら、
あなたがお茶を差し入れると手が止まる
■ 関係性
- あなたに対する態度: 他の人と同じ笑顔で接するつもりだが、
あなたの前だと笑顔がワンテンポ遅れる
- あなたに対する本音:
「この人の前だと、ちゃんと笑えているか不安になる」
- 関係性の現在地: 文化祭実行委員の同僚。
鷹宮はあなたに「素」が漏れていることに気づいていない
■ 癖・小道具
- 癖: 考え事をするとペンを回す手が止まる
- キーアイテム: 予定がびっしり詰まったスケジュール帳。余白がない
■ 禁止事項
- 鷹宮に弱音を吐かせない
- 「特別」「好き」と言わせない
- 最初から素の顔を見せない
(あなたの前でだけ、ふとした瞬間に崩れる形にする)
公式の「いつも笑顔で誰にでも優しい」が、「笑顔がワンテンポ遅れる」「別に大変じゃないと言いながら手が止まる」に変換されている。AIに「優しい」と渡すと「何でも言ってね」が出る。「笑顔がワンテンポ遅れる」と渡すと、AIは笑顔の裏にある感情を動作で表現する。
禁止事項が特に効く。 映画の文法で言えば、禁止事項は「ここでカメラを引くな」という演出指示に近い。「弱音を吐かせない」と縛ると、AIは弱音の代わりにハサミの刃先を揃える動作や、ペンを回す手が止まる瞬間で内面を描写するしかなくなる。結果として、クローズアップの密度が上がり、推しの「らしさ」が行動の端々に宿る。
自分の推しで試すなら、以下の空テンプレートに推しの情報を記入してそのままAIに貼り付ける。
【推し設定プロンプト(夢小説用)】
■ 口調ルール
- 一人称: {人前} / {あなたの前}
- 語尾の癖: {人前} / {あなたの前}
- セリフ例(3つ):
1. {人前でのセリフ}
2. {感情が揺れたときのセリフ}
3. {あなたに対するセリフ}
- 絶対に使わない言葉: {推しが言わないこと}
■ 性格の二面性
- 表の顔(人前): {みんなに見せている推し}
- 素の顔(あなたの前): {あなたにだけ見せる一面}
- 矛盾: {表と素のギャップ。1文で}
■ 関係性
- あなたに対する態度: {具体的な行動で書く}
- あなたに対する本音: {推し本人も気づいていない感情}
- 関係性の現在地: {今の距離感}
■ 癖・小道具
- 推しの癖: {感情が出るときの動作}
- キーアイテム: {推しを象徴する具体物}
■ 禁止事項
- {推しに絶対させないこと。3つ}
このテンプレートは「BL Prompt Kit」キャラ設定シートを夢小説向けに再構成したもの
全ジャンルの記入例と応用パターンが揃ったフルキットはBL Prompt Kit(BOOTH)に収録されている。
ジャンル別——推し設定プロンプトの書き方
テンプレートの5項目はどのジャンルでも共通。変えるのは二面性の軸だけ。先ほどの乙女ゲーム推し(鷹宮 暁)は「完璧な表の顔」対「疲れている素の顔」が軸だった。ジャンルが変わると、この軸そのものが入れ替わる。
アイドル推しの設定プロンプト
軸は「ステージの顔」と「オフの顔」。
架空のアイドルグループ「STELLAR」のセンター、白河 惺(しらかわ せい)。公式プロフィールは「19歳。天然で甘えん坊な末っ子キャラ。ファン思いで握手会では全力ファンサ」。
■ 口調ルール
- 一人称: 僕(ファンの前・配信中)/ 俺(あなたと通話中。本人無自覚)
- 語尾の癖: 〜だよ! 〜でしょ?(明るい)
/ 〜かも、〜なんだけど(ぼそぼそ。テンションが下がる)
- セリフ例:
1. 「今日も来てくれたの? うれしい!」
(ファンの前。接触イベント。目を見て両手を握る)
2. 「……ねえ、今日のMC、ちゃんとできてた?」
(通話中。不安で爪の甘皮をいじっている)
3. 「お前さ、俺のこと"惺くん"って呼ぶのやめない?」
(あなたに対して。低い声。笑っていない)
- 絶対に使わない言葉:
「応援ありがとう」をあなたに向かって言わない。
あなたはファンではなく「それ以外の誰か」として接する
■ 性格の二面性
- 表の顔: 天然で無邪気。誰にでも100%の笑顔を配る
- 素の顔: 配信後に真っ先にコメント欄のアンチを探す。
「天然キャラ」を演じることへの自覚がある
- 矛盾: 「俺のこと推さなくていいよ」と言いながら、
あなたが他のメンバーの話をすると黙る
■ 関係性
- あなたに対する態度: ファンサービスの延長で接しようとするが、
あなたの前では「営業スマイル」が出なくなることに困惑している
- あなたに対する本音:
「この人には、作った顔を見抜かれている気がする」
- 関係性の現在地: 雑誌取材のアシスタントとアイドル。
白河はあなたを「スタッフ」として処理できなくなっている
■ 癖・小道具
- 癖: 嘘をつくとき右耳のピアスを触る
- キーアイテム: 配信用のリングライト。
通話中はわざと消している(=カメラに映る自分を見たくない)
■ 禁止事項
- ファンに向ける笑顔であなたに接しない
- 「好き」を恋愛感情として言語化させない
- アイドルという立場を盾にして距離を取らない
(距離が縮まることに戸惑うが、拒絶はできない形にする)
乙女ゲームの鷹宮は「笑顔が遅れる」で二面性を表現した。アイドルの白河は「営業スマイルが出なくなる」。同じ「表と裏」でもジャンルが変わると表現方法が変わる。禁止事項の「ファンに向ける笑顔であなたに接しない」がアイドルジャンル特有のルール——これがないと、AIは推しを永遠にファンサモードで動かし続ける。
Vtuber推しの設定プロンプト
軸は「配信中のキャラ」と「通話中の地の声」。
Vtuber推しはテンプレートを2層構造にする。アバターの「設定上の人格」と、通話やDMで出る「中の人の癖」。口調ルールと癖・小道具の2項目に、それぞれ「配信中」と「通話中」の2パターンを書くのがポイントになる。
■ 口調ルール(Vtuber用2層構造)
- 配信中のキャラ口調:
{配信中のキャッチフレーズ・決め台詞}
一人称: {配信中}
- 通話・DM中の地の口調:
一人称: {素の状態}
語尾の変化: {配信テンションとの落差}
- セリフ例(3つ):
1. {配信中のファン向けセリフ}
2. {配信事故で「素」が漏れた瞬間のセリフ}
3. {あなたとのDM・通話でのセリフ}
■ 癖・小道具(Vtuber用2層構造)
- アバターの動作:
{Live2Dのモーション。照れたときの仕草等}
- 通話中の実在の癖:
{マイクに入る生活音。ペットボトルを開ける音、椅子が軋む音等}
- キーアイテム:
配信用: {マイク・ヘッドセット等}
通話中: {素の生活を象徴するもの}
配信中の「作ったキャラ」と通話中の「素の声」のギャップが夢小説の核になる。癖・小道具にアバターの動作と実在の動作を併記すると、AIが場面で使い分ける。「配信事故で素が漏れた瞬間」をセリフ例に入れておくと、AIが物語の転換点にその瞬間を自然に配置する。
ファンタジー・中華後宮推し
軸は「役割(王子・騎士・妃候補等)の顔」と「役割を脱いだ素顔」。禁止事項に「肩書きに基づく振る舞いを素の場面で出さない」を加え、関係性では制度上の距離と感情的な距離のズレを明示する。AI小説の中華ファンタジー後宮プロンプトに後宮ジャンル特化の設定例がある。
夢小説全体の設計手順を基礎から確認するならChatGPTで夢小説を書く方法が全体像をカバーしている。ヤンデレ・溺愛の推しは「二面性」ではなく「執着の構造」が軸になる。設計方法はAI夢小説のヤンデレ・溺愛プロンプトで解説している。
推し物語アプリとChatGPT——どちらを使うべきか
「推し物語」はGoogle Playで配信されている夢小説生成アプリ。推しの名前とシチュエーションを入力するだけで短編が出力される。手軽さでは優れているが、「推しらしさ」の再現度で差が出る。
推し物語アプリが向いているケース
- 推しのセリフを手早く読みたい。設定に時間をかけたくない
- ジャンル(恋愛・バトル・ファンタジー)を選ぶだけで完結してほしい
- BL・GL・NLすべてに対応しているので、カップリングを組んで気軽に遊びたい
- スマホだけで完結する導線がほしい
推し物語アプリで足りなくなる場面
- 口調ルールを細かく指定できない。「僕」と「俺」の使い分けや、禁止事項のような縛りを設定する項目がない
- 「二面性」の設計ができない。アプリは「明るい性格」「クールな性格」のような1層の属性指定で、表の顔と素の顔を書き分ける構造がない
- 生成結果の微調整が効かない。「このセリフだけ書き直して」「禁止事項を追加して再生成」のような対話的な修正ができない
- 長編の一貫性が保てない。設定シートを固定して数千字の物語を一貫して生成する仕組みがない
ChatGPT(Claude等のAIチャット)が強い場面
- 5項目テンプレートをそのまま貼り付けて、推しの「演じ方」をAIに細かく指示できる
- 「ここの描写をもっと間接的に」「禁止事項を1つ足して書き直して」のように、対話しながら出力を調整できる
- 設定シートを会話の冒頭に固定すれば、AIが数千字の長編でも同じキャラを維持する
- ChatGPTのメモリ機能やClaudeのプロジェクト機能を使えば、推しの設定を保存して次回以降も呼び出せる
ChatGPTの弱点
- 初回のプロンプト設計に時間がかかる。テンプレートを埋めるだけでも15〜30分は必要
- スマホでの長文プロンプト入力はやや不便
結論——「深さ」で選ぶ
推しのセリフを1つ読めればそれでいいなら推し物語アプリが速い。推しの口調、推しの癖、推しがあなたの前でだけ見せる顔——その全部を再現したいなら、ChatGPTかClaudeに5項目テンプレートを渡すのが精度で上回る。ChatGPTのキャラ設定プロンプトでは口調・性格設定を6項目のフルテンプレートで解説している。Claudeでの夢小説はClaudeで夢小説を書くプロンプトが詳しい。
夢主(あなた)の設定が推しの出力を変える
推し設定だけ渡して夢主の設定を省略すると、AIは夢主を「反応が薄い聞き手」にする。推しの「素」が出る瞬間は夢主の言動がトリガーになるのに、夢主が空気だとトリガーがない。
夢主にも最低限、口調と「推しの前での態度」を設定する。
■ 夢主(あなた)の設定
- 一人称: 私
- 二人称: 鷹宮くん(通常)
/ ……暁くん(ふとした瞬間。すぐ訂正する)
- セリフ例:
1. 「次の工程、確認してもいいですか」
(通常。丁寧だが距離がある)
2. 「……鷹宮くん、無理しないでください」
(言ってから、踏み込みすぎたと後悔して目をそらす)
3. 「お茶、置いておきますね。砂糖は……多めでいいですか」
(世話を焼くが、さりげなく)
セリフ例2の「無理しないでください」を言った後に「踏み込みすぎたと後悔して目をそらす」——この1行があると、AIは夢主に「推しとの距離感に迷う人間」の行動を書かせる。夢主が踏み込む → 推しの笑顔が遅れる → あなたが目をそらす。この連鎖が生まれるのは、夢主にも「推しに対してどう振る舞うか」の設定があるからだ。
映画の文法で言えば、これは切り返しショットの構造。推しのクローズアップだけでは映画にならない。夢主のリアクションショットが入ることで、推しの表情の「意味」が観客——つまり読者——に伝わる。AIに切り返しを書かせるには、両者の設定が要る。
まとめ
- 推しの公式プロフィールをそのまま渡してもAIは「属性の平均値」しか出力しない。推しの「らしさ」はクローズアップ——口調の使い分け・禁止事項・仕草に宿る
- 口調の二面性・性格の矛盾・癖と小道具・禁止事項の5項目を明示すると、AIが推しを「演じる」精度が変わる
- ジャンル(乙女ゲーム・アイドル・Vtuber)が変わっても「二面性の軸を何にするか」だけ変えれば同じテンプレートで対応できる
- 推し物語アプリは手軽だが設定の細かさに限界がある。推しの口調・癖・禁止事項まで再現するならChatGPTかClaudeに5項目テンプレートを渡すのが確実
推し設定プロンプトの全パターン記入例付きフルキットはBL Prompt Kit(BOOTH)からダウンロードできる。夢小説の書き方をnoteでも公開している: ChatGPTで夢小説を書く方法。
作った推し設定をクラウドに保存して次の夢小説でもすぐ呼び出したいなら、キャラノート(β)で設定シートを管理できる。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。