「……こいつ、原作だと左目が義眼なんだけど」
夜行バスの車内でスマホの画面を睨む。推しCPの二次創作をAIに書かせた。3,000字の出力を読み返したら、主人公の義眼が途中から両目に戻っている。魔法体系も原作と違う。キャラの一人称まで「俺」から「僕」にすり替わっていた。設定を渡したはずなのに、AIが原作を壊していく。
二次創作でAIが原作設定を壊す2つの原因
原因1: 設定に「優先度」がない
オリジナル小説なら設定の矛盾は「書き直せばいい」で済む。二次創作は違う。原作の設定は絶対に変えてはいけない。でもAIにはその区別がつかない。
「鷹取は左目が義眼」と「鷹取は窓の外を見つめた」を同じプロンプトに入れると、AIは両方を同じ重みで処理する。義眼の設定よりも「見つめた」の文脈が優先され、両目が見える描写が出力される。ChatGPT小説の設定が矛盾する原因と対策で扱った設定台帳は有効だが、二次創作では「どの設定が上書き不可か」を明示する必要がある。
原因2: 原作知識とプロンプトが競合する
ChatGPTやClaudeは有名作品のキャラ情報を学習データから持っている。ここに自分のプロンプトの設定が加わると、AI内部で2つの情報源が競合する。AIが「知っている原作情報」と「あなたが渡した設定」が食い違ったとき、AIはどちらを優先すべきかわからない。
解決策: 設定を「3つの階層」で渡す
矛盾を防ぐには、設定に優先順位を付けてAIに渡す。原作層 → 共通層 → 独自層の3階層で整理する。
あなたは二次創作小説の作家です。以下の設定に基づいてシーンを執筆してください。
**設定の優先順位: 原作層 > 共通層 > 独自層。上位の設定を下位が矛盾する場合、必ず上位に従ってください。**
【原作層(絶対不変)】※この設定は一切変更しない
- 作品世界: 魔法が血統で決まる世界。後天的に魔法を得る手段はない
- 鷹取 知弦(たかとり ちづる): 左目が義眼(戦闘で失明)。一人称「俺」。火系統の魔法しか使えない
- 稲庭 空(いなにわ そら): 鷹取の元パートナー。一人称「私」。水系統。現在は敵対組織に所属
- 二人の関係: かつて同じ部隊。稲庭の離反後、鷹取は稲庭の名前を口にしない
【共通層(二次創作の慣例)】
- 鷹取は義眼側を相手に向けない癖がある(原作に明示はないがファンの共通解釈)
- 稲庭が離反した真の理由は原作未公開。ここでは「鷹取を守るため」と設定する
【独自層(この作品オリジナル)】
- 時系列: 原作最終話から3ヶ月後
- 場面: 休戦交渉の会場で偶然再会する
- オリジナル要素: 鷹取が義眼を新型に替えている(見た目は生身と区別がつかない)
【矛盾チェック指示】
出力前に以下を自己確認してください:
1. 鷹取の一人称は「俺」か?
2. 火系統以外の魔法を使っていないか?
3. 義眼の設定が消えていないか?
空テンプレート: 自分の推し作品で使う
あなたは二次創作小説の作家です。設定の優先順位に従って執筆してください。
**優先順位: 原作層 > 共通層 > 独自層。矛盾時は上位優先。**
【原作層(絶対不変)】
- 作品世界: {世界観の核心ルール}
- {キャラA}: {身体的特徴}。一人称「{一人称}」。{能力・制限}
- {キャラB}: {身体的特徴}。一人称「{一人称}」。{Aとの関係}
- 二人の現在の距離感: {原作準拠の関係性}
【共通層(ファンの共通解釈)】
- {原作に明示はないが広く受け入れられている設定}
【独自層(この作品オリジナル)】
- 時系列: {原作のどの時点から何ヶ月/年後}
- {このSSのオリジナル要素}
【矛盾チェック指示】
出力前に確認: {原作設定で最も壊れやすい項目を3つ列挙}
このテンプレートの記入例を1ジャンル分見せた。残りのジャンル別記入例(現代学園もの・SF・歴史もの)と設定チェックリスト生成プロンプトはBL Prompt Kit(BOOTH)のフルキットに収録している。
before/after: 階層化が守るもの
階層なし(before) 鷹取は両目で稲庭を見据えた。「久しぶりだな」と僕は言った。右手に水の魔法を纏わせて、牽制する。
階層あり(after) 鷹取は左側を壁に向けたまま、右目だけで人混みを追っていた。見つけたのは視界の端。水色の軍服が揺れている。 「——」 名前は出ない。出さないと決めた3ヶ月が、喉を塞いでいる。右手に火が灯る。それしかできない。それだけでいい。
▶ 変えたのは"設定を並列で渡す代わりに、原作層を最上位に固定した"だけ。
AI二次創作で原作を再現するコツでは文体の再現方法を扱っている。設定の階層化と文体再現を組み合わせると、「このキャラだ」と読者が感じる二次創作に近づく。
まとめ
- 二次創作でAIが原作を壊すのは、設定に優先順位がないから
- 原作層(絶対不変)→ 共通層(ファン慣例)→ 独自層(オリジナル)の3階層で渡す
- 出力前の矛盾チェック指示を入れると、一人称や能力の取り違えが大幅に減る
推しキャラの原作設定を一元管理したいならキャラノート(β)で設定シートを保存できる。二次創作向けの階層テンプレートと矛盾チェックリストはBL Prompt Kit(BOOTH)で。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。