AI小説の地の文の書き方——「説明の羅列」を「読ませる描写」に変える3ステップ
「なんで全部、ト書きみたいになるんだ……」
3,000字のAI小説をスクロールする。台詞と台詞のあいだを埋める地の文が、全行「○○は〜した」「〜と思った」の説明文。閉じて、プロンプトを書き直して、もう一度生成ボタンを押した。結果は同じだった。
地の文はセリフの「つなぎ」ではない。読者をその場所に立たせる装置。プロンプトに3つの指示——五感フィルター、リズム制御、モンタージュ設計——を加えるだけで、AIの地の文は変わる。
ステップ1: 五感フィルターで「説明」を「体験」に変える
AIの地の文が説明文になる最大の原因は、五感の素材を渡していないこと。
たとえば「和菓子店の工房で練り切りを作っている」という場面指定だけで書かせると、こうなる。
八重樫は工房で練り切りを作っていた。彼は集中していた。榊が入ってきた。八重樫は少し驚いたが、すぐに作業に戻った。榊は和菓子を見て美しいと思った。
「〜していた」「〜した」「〜と感じた」の報告書。蒸し器から立ち上る湯気の匂いも、包丁が餡を切る音も、練り切りの薄紅色も書かれていない。AIはこれらの素材を自分からは出さない。先に渡す必要がある。
以下は、和菓子店の閉店後の工房シーンのプロンプト例。
【キャラクター】
- 八重樫 壮: 和菓子職人。30歳。寡黙。感情は手の動きに出る
- 榊 怜: 日本美術研究者。29歳。観察癖がある。言葉が多い
【場面設定】
- 場所: 閉店後の和菓子店の工房
- 時間: 夜。蛍光灯の白い光
- 五感素材:
- 視覚: 練り切りの薄紅色、指先についた上新粉、ステンレス台の反射
- 聴覚: 生地を切る小さな音、換気扇の低い唸り
- 嗅覚: 砂糖を煮詰めた甘さの残り香、手洗い用石鹸の柑橘
- 触覚: 生地の弾力、ステンレスの冷たさ
- 味覚: なし(食べるシーンではないため省略)
【演出ルール】
- 地の文は五感で拾える情報だけで構成する
- 「〜と思った」「〜と感じた」のような心理説明は禁止
- 文の長さに緩急をつける。3語の短文と、20語超の長文を交互に使う
このプロンプトの核は「五感素材」のリスト。AIに「何が見えるか、聞こえるか、匂うか」を先に渡しておくと、地の文がそのリストから素材を拾って構成される。結果、「説明文」ではなく「体験」としての地の文が出力される。
あなたのシーンに合わせるなら、以下の空テンプレートを使う。
【キャラクター】
- {キャラ名A}: {職業・立場}。{年齢}。{性格を動作で表す特徴}
- {キャラ名B}: {職業・立場}。{年齢}。{性格を動作で表す特徴}
【場面設定】
- 場所: {具体的な場所}
- 時間: {時間帯と光の質}
- 五感素材:
- 視覚: {その場所で目に入るもの3つ}
- 聴覚: {その場所で聞こえる音2つ}
- 嗅覚: {その場所の匂い1〜2つ}
- 触覚: {キャラが触れるものの感触1〜2つ}
- 味覚: {該当する場合のみ}
【演出ルール】
- 地の文は五感で拾える情報だけで構成する
- 「〜と思った」「〜と感じた」のような心理説明は禁止
- 文の長さに緩急をつける。3語の短文と、20語超の長文を交互に使う
「五感素材」の欄を自分のシーンに合わせて埋めるだけで、AIの地の文が変わる。ファンタジーなら「魔導書のインクの匂い」「石造りの床の冷たさ」、現代BLなら「コインランドリーの洗剤の匂い」「乾燥機の低い振動」——場所ごとの五感を3つ以上並べるのがコツ。
ここでは和菓子店の1例だけを載せた。ファンタジー・学園もの・現代ドラマなど全ジャンルの記入例と、場面ごとの五感リスト全パターンはBL Prompt Kit(BOOTH)のシーン生成プロンプトに収録している。
ステップ2: 文の「長さ」に緩急をつける
五感を入れただけでは、まだAI臭さが残る場合がある。原因はリズムの均一性。
AIの地の文は全行が同じ長さになりがち。「○○が△△した。□□は××だった。」——主語+述語の繰り返しが延々と続く。人間が書く地の文には「短い文で止めて、次に長い文で流す」リズムの揺れがある。
同じシーン(八重樫の工房に榊が入ってくる場面)で比較する。
リズム指示なし(before) 八重樫は練り切りの形を整えていた。薄紅色の生地が指先で花びらの形になった。換気扇が静かに回っていた。ドアが開いて榊が入ってきた。八重樫は手を止めなかった。
リズム指示あり(after) 指が止まる。 薄紅色の練り切りが、ステンレス台の上で花びらの形を取りかけている。あと一押しで開く。その「あと一押し」が、八重樫にはいつも一番長い。 ドアが鳴った。 振り向かなかった。換気扇の低い音の隙間に、革靴がリノリウムを踏む音が混ざる。 「——遅くまでやってるね」 榊の声。八重樫は生地に視線を戻した。指先に力を入れる。薄い花びらが、一枚、開いた。
▶ 変えたのは「文の長さに緩急をつける。3語の短文と20語超の長文を交互に使う」という1行のリズム指示だけ。
beforeは5つの文がすべて同じ長さで、読んでいて呼吸が平坦になる。afterは「指が止まる」「ドアが鳴った」の短文で読者の呼吸を止め、直後の長い文で流す。このリズムの緩急が「読ませる地の文」を作る。
AI小説の「AI臭い」を直す方法では感情説明を動作に変換する技術を解説しているが、地の文のリズムは「何を書くか」とは別レイヤーの問題。五感フィルター(素材の選択)とリズム制御(素材の並べ方)を両方プロンプトに入れると、AI小説の地の文は段違いに変わる。
ステップ3: 「書かないこと」を設計する——モンタージュの技術
ここまでで「何を書くか」(五感)と「どう書くか」(リズム)を制御した。最後のステップは**「何を書かないか」**の設計。
映画にモンタージュという技法がある。りんごのショット → ナイフのショット → 赤い液体のショット。3つの映像を並べるだけで、観客の頭の中に「切った」というシーンが浮かぶ。カットそのものには「切る」動作は映っていない。
地の文でもこれと同じことができる。
八重樫が完成した練り切りを榊の前に置いた。紫陽花。 榊が手を伸ばしかけて、止めた。 「……食べていいの」 八重樫は次の生地を練り始めていた。
4行。「八重樫がどう思ったか」は一切書いていない。だが読者には伝わる——「食べていい」と言う代わりに、次の作業に移ることが八重樫の答えであること。榊が手を伸ばしかけて止めたことが、この和菓子の「特別さ」を暗示していること。
これがモンタージュ効果。小さな描写を並べるだけで、書かれていない第三の意味が読者の中に生まれる。地の文の最も強力な武器は「書くこと」ではなく「書かないこと」にある。
プロンプトでモンタージュを引き出すには、以下の指示を追加する。
【地の文の設計】
- キャラの感情を地の文で直接説明しない
- 代わりに「小道具」「動作」「沈黙」を並べて、読者に意味を推測させる
- 1シーンに「言葉にしない感情」を1つ仕込む。その感情は、キャラの動作だけで推測できるようにする
会話シーンの設計と組み合わせると効果が増す。AI小説の会話を自然にする方法ではセリフのリズム設計を解説しているが、地の文の「間」と会話の「テンポ」を両方コントロールすると、シーン全体の密度が上がる。
まとめ
AIの地の文を「説明の羅列」から「読ませる描写」に変えるには、五感フィルター(何を書くか)、リズム制御(どう書くか)、モンタージュ設計(何を書かないか)の3つをプロンプトに組み込む。
この3つのテンプレートと、ジャンル別の五感リスト・記入例の全パターンはBL Prompt Kit(BOOTH)に収録している。地の文が変わると、同じストーリーでも読後感がまるで違う。まず1シーン、五感フィルターから試してほしい。