「なんで全部、ト書きみたいになるんだ……」
3,000字のAI小説をスクロールする。台詞と台詞のあいだを埋める地の文が、全行「○○は〜した」「〜と思った」の説明文。閉じて、プロンプトを書き直して、もう一度生成ボタンを押した。結果は同じだった。
地の文はセリフの「つなぎ」ではない。読者をその場所に立たせる装置。プロンプトに3つの指示——五感フィルター、リズム制御、モンタージュ設計——を加えるだけで、AIの地の文は変わる。
ステップ1: 五感フィルターで「説明」を「体験」に変える
AIの地の文が説明文になる最大の原因は、五感の素材を渡していないこと。
たとえば「朝靄の港で仲買人が魚を選別している」という場面指定だけで書かせると、こうなる。
原田は荷さばき場で魚を選別していた。彼は集中していた。浅井が近づいてきた。原田は少し驚いたが、すぐに作業に戻った。浅井は魚の並びを見て綺麗だと思った。
「〜していた」「〜した」「〜と思った」の報告書。靄に滲む常夜灯のオレンジも、氷を砕く音も、潮と鉄が混じった生臭さも書かれていない。AIはこれらの素材を自分からは出さない。先に渡す必要がある。
以下は、朝靄の港の荷さばき場シーンのプロンプト例。
【キャラクター】
- 原田 朔: 漁港の仲買人。30歳。口より手が先に動く
- 浅井 圭: フードライター。29歳。観察癖がある。言葉が多い
【場面設定】
- 場所: 朝靄の港の荷さばき場
- 時間: 夜明け直後。靄の中にオレンジの常夜灯が滲む
- 五感素材:
- 視覚: 発泡スチロールに並ぶ銀色の魚体、ゴム手袋の黄色、靄に滲む常夜灯
- 聴覚: 氷を砕く音、フォークリフトのバック警告音、遠くのカモメ
- 嗅覚: 潮と鉄が混じった生臭さ、ディーゼルの排気
- 触覚: ゴム手袋越しの魚の重み、朝の冷気が首筋を刺す
- 味覚: なし(食べるシーンではないため省略)
【演出ルール】
- 地の文は五感で拾える情報だけで構成する
- 「〜と思った」「〜と感じた」のような心理説明は禁止
- 文の長さに緩急をつける。3語の短文と、20語超の長文を交互に使う
このプロンプトの核は「五感素材」のリスト。AIに「何が見えるか、聞こえるか、匂うか」を先に渡しておくと、地の文がそのリストから素材を拾って構成される。結果、「説明文」ではなく「体験」としての地の文が出力される。
あなたのシーンに合わせるなら、以下の空テンプレートを使う。
【キャラクター】
- {キャラ名A}: {職業・立場}。{年齢}。{性格を動作で表す特徴}
- {キャラ名B}: {職業・立場}。{年齢}。{性格を動作で表す特徴}
【場面設定】
- 場所: {具体的な場所}
- 時間: {時間帯と光の質}
- 五感素材:
- 視覚: {その場所で目に入るもの3つ}
- 聴覚: {その場所で聞こえる音2つ}
- 嗅覚: {その場所の匂い1〜2つ}
- 触覚: {キャラが触れるものの感触1〜2つ}
- 味覚: {該当する場合のみ}
【演出ルール】
- 地の文は五感で拾える情報だけで構成する
- 「〜と思った」「〜と感じた」のような心理説明は禁止
- 文の長さに緩急をつける。3語の短文と、20語超の長文を交互に使う
「五感素材」の欄を自分のシーンに合わせて埋めるだけで、AIの地の文が変わる。ファンタジーなら「魔導書のインクの匂い」「石造りの床の冷たさ」、現代BLなら「コインランドリーの洗剤の匂い」「乾燥機の低い振動」——場所ごとの五感を3つ以上並べるのがコツ。
ここでは港の1例だけを載せた。ファンタジー・学園もの・現代ドラマなど全ジャンルの記入例と、場面ごとの五感リスト全パターンはBL Prompt Kit(BOOTH)のシーン生成プロンプトに収録している。
ステップ2: 文の「長さ」に緩急をつける
五感を入れただけでは、まだAI臭さが残る場合がある。原因はリズムの均一性。
AIの地の文は全行が同じ長さになりがち。「○○が△△した。□□は××だった。」——主語+述語の繰り返しが延々と続く。人間が書く地の文には「短い文で止めて、次に長い文で流す」リズムの揺れがある。
同じシーン(原田の荷さばき場に浅井が入ってくる場面)で比較する。
リズム指示なし(before) 原田は魚を選別していた。銀色の魚体が発泡スチロールに並んでいた。靄が薄くなり始めていた。浅井が荷さばき場に入ってきた。原田は手を止めなかった。
リズム指示あり(after) 手が止まる。 発泡スチロールの中で、鰆の腹が朝の光を一瞬だけ返した。目利きに迷う魚ではない。ただ、こいつの脂の乗りを誰かに伝えたくなった。その「誰か」がいつから特定の一人になったのか、原田は考えないことにしている。 足音がした。 振り向かなかった。ゴム長靴ではない。革靴がコンクリートを踏む、場違いな硬い音。 「——今日も早いね」 浅井の声。原田は鰆を氷の上に戻した。指先で向きを直す。銀色の腹が、もう一度光った。
▶ 変えたのは「文の長さに緩急をつける。3語の短文と20語超の長文を交互に使う」という1行のリズム指示だけ。
beforeは5つの文がすべて同じ長さで、読んでいて呼吸が平坦になる。afterは「手が止まる」「足音がした」の短文で読者の呼吸を止め、直後の長い文で流す。このリズムの緩急が「読ませる地の文」を作る。
AI小説の「AI臭い」を直す方法では感情説明を動作に変換する技術を解説しているが、地の文のリズムは「何を書くか」とは別レイヤーの問題。五感フィルター(素材の選択)とリズム制御(素材の並べ方)を両方プロンプトに入れると、AI小説の地の文は段違いに変わる。
ステップ3: 「書かないこと」を設計する——モンタージュの技術
ここまでで「何を書くか」(五感)と「どう書くか」(リズム)を制御した。最後のステップは**「何を書かないか」**の設計。
映画にモンタージュという技法がある。りんごのショット → ナイフのショット → 赤い液体のショット。3つの映像を並べるだけで、観客の頭の中に「切った」というシーンが浮かぶ。カットそのものには「切る」動作は映っていない。
地の文でもこれと同じことができる。
原田が選り分けた鰆を浅井の前に置いた。朝一番の、一匹。 浅井がカメラを構えかけて、止めた。 「……これ、記事用じゃなくて?」 原田は次の発泡スチロールに手を伸ばしていた。
4行。「原田がどう思ったか」は一切書いていない。だが読者には伝わる——「記事用じゃない」と言う代わりに、次の作業に移ることが原田の答えであること。浅井がカメラを構えかけて止めたことが、この魚の「特別さ」を暗示していること。
これがモンタージュ効果。小さな描写を並べるだけで、書かれていない第三の意味が読者の中に生まれる。地の文の最も強力な武器は「書くこと」ではなく「書かないこと」にある。
プロンプトでモンタージュを引き出すには、以下の指示を追加する。
【地の文の設計】
- キャラの感情を地の文で直接説明しない
- 代わりに「小道具」「動作」「沈黙」を並べて、読者に意味を推測させる
- 1シーンに「言葉にしない感情」を1つ仕込む。その感情は、キャラの動作だけで推測できるようにする
会話シーンの設計と組み合わせると効果が増す。AI小説の会話を自然にする方法ではセリフのリズム設計を解説しているが、地の文の「間」と会話の「テンポ」を両方コントロールすると、シーン全体の密度が上がる。
まとめ
AIの地の文を「説明の羅列」から「読ませる描写」に変えるには、五感フィルター(何を書くか)、リズム制御(どう書くか)、モンタージュ設計(何を書かないか)の3つをプロンプトに組み込む。
この3つのテンプレートと、ジャンル別の五感リスト・記入例の全パターンはBL Prompt Kit(BOOTH)に収録している。地の文が変わると、同じストーリーでも読後感がまるで違う。まず1シーン、五感フィルターから試してほしい。 BL小説の書き方をnoteでも解説している: ChatGPTでBL小説を書く方法。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
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