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2026-04-04AI小説 ご都合主義 直す プロンプト

AI小説のご都合主義を直すプロンプト——「制約条件」で展開を締める方法

「なんで今このタイミングで助けが来るんだよ……」

画面をスクロールする手が止まる。AIが書いた3,000字の短編を読み返し、ピンチのたびに偶然が重なって解決する展開に、保存ボタンを押す気力が消えていく。設定は練った。キャラも立てた。なのに物語が「嘘くさい」。

AIがご都合主義に陥る3つの原因

ご都合主義はAIの性能の問題ではない。プロンプトの構造が「楽な解決」を許してしまっている。

1. 学習データの平均化。 AIの学習元には膨大な物語が含まれるが、その大半は「ピンチ→救済→ハッピーエンド」の王道構造。指示がなければ、AIは最も出現頻度の高いパターン——つまり「都合よく解決する」展開を選ぶ。これは確率的に最も「安全」な出力だからだ。

2. コンフリクト回避。 AIには「ユーザーの期待に沿う」バイアスがある。キャラが窮地に陥ると、AIはその不快な状態を早く解消しようとする。結果、問題が提示された直後に解決策が降ってくる。読者が「このキャラはどうするんだろう」と考える余白がない。

3. 「解決」への最短ルート。 プロンプトに「この場面で二人の距離が縮まる」と書くと、AIはゴールへの最短距離を走る。鍵がたまたま開いている。雨がちょうど降り出す。電車が都合よく遅延する。ゴールだけ指定して経路を指定しなければ、AIは常にショートカットを選ぶ。

この構造はAI小説で同じ展開を繰り返す原因と直し方で解説した「最頻出パターンへの収束」と同じ根を持つ。AIは明示的に制約しない限り、最も確率の高い——つまり最もご都合主義的な経路を取る。

解決策: 「制約条件」プロンプトで展開を締める

ご都合主義を断つ鍵は、プロンプトに「使ってはいけない解決手段」を書くことにある。AIに「何を書くか」だけでなく「何を使わずに解決するか」を伝える。

まず完成形を見てほしい。

あなたはBL小説の演出家です。以下の設定と制約条件に基づいてシーンを書いてください。

【キャラクター】
- 戸田 勇気(22歳・左官職人見習い): 生意気だが核心を突く。年上にも臆さない口調
- 小川 京一(34歳・現場監督、一級建築施工管理技士): 面倒見がいいが、立場の線引きに厳格

【場面設定】
工事現場の休憩所、昼休み。猛暑日。二人きり。

【シーンのゴール】
戸田が小川への感情を自覚しかける

【制約条件(これが核)】
- 偶然の出来事(突然の雨、停電、第三者の介入)で距離を縮めない
- 身体接触を使わない
- 相手の好意を直接示す言動を入れない
- 解決は「キャラの選択」だけで起こす

【演出ルール】
- 感情は説明しない。表情・沈黙・動作・セリフだけで表現する
- 「嬉しかった」「悲しかった」のような心情説明は禁止
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする

ポイントは「制約条件」の4行。偶然を禁止し、身体接触を封じ、好意の直接表現を塞ぐ。AIに残された手段は「キャラの選択と言動だけで関係性を動かす」ことだけになる。

このテンプレートを自分の設定に合わせて使えるよう、空テンプレートも用意した。

あなたはBL小説の演出家です。以下の設定と制約条件に基づいてシーンを書いてください。

【キャラクター】
- {キャラA名}({年齢}・{職業}): {性格・口調の特徴}
- {キャラB名}({年齢}・{職業}): {性格・口調の特徴}

【場面設定】
{場所}、{時間帯}。{状況の補足}。

【シーンのゴール】
{このシーンで達成したい感情の変化。1つだけ}

【制約条件】
- 偶然の出来事({禁止したい偶然を具体的に})で距離を縮めない
- {封じたい手段1}を使わない
- {封じたい手段2}を入れない
- 解決は「キャラの選択」だけで起こす

【演出ルール】
- 感情は説明しない。表情・沈黙・動作・セリフだけで表現する
- 心情説明は禁止。動作と会話だけで見せる
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする

このテンプレートの全パターン——すれ違い・距離縮め・感情爆発など場面別の制約条件セットはBL Prompt Kit(BOOTH)に収録している。

実例: before/after

同じキャラ、同じ場面で、制約条件の有無だけを変えた結果を並べる。

before(制約条件なし) 昼休み、休憩所で弁当を食べていた戸田の隣に小川が座った。突然スコールが降り出し、プレハブの屋根を叩く雨音で二人の距離が近くなる。小川が「傘、一本しかないな」と笑い、戸田は顔が熱くなるのを感じた。雨が上がる頃には、二人の間に何かが芽生えていた。

after(制約条件あり) 昼休み、休憩所に戸田と小川だけが残った。小川は図面を広げ、弁当を片手に赤ペンを走らせている。戸田が無言で麦茶を差し出す。小川の手が止まる。「……どうした、急に」「別に。暑いから倒れられたら迷惑なんで」小川がペンを置き、麦茶を受け取った。指は触れない。戸田はそれを確認してから、自分の弁当箱に視線を落とした。

▶ 変えたのは「偶然の出来事を禁止し、キャラの選択だけで動かす」制約条件だけ。

なぜafterの方が没入できるのか。読者心理の構造で説明できる。

人は物語を読むとき、無意識に「次に何が起こるか」を予測している。beforeの「突然の雨」は予測の外側から降ってくるイベントだ。読者は自分の予測を裏切られるのではなく、予測する機会そのものを奪われる。没入が途切れるのはそのためだ。

afterでは、戸田が麦茶を差し出した瞬間に読者の頭が動き始める。「受け取るのか?」「指は触れるのか?」「何か言うのか?」。この予測と結果のあいだの緊張が、読者の中に感情を生む。制約条件は、AIに「読者が予測する余白」を作らせるための設計図にあたる。

AI小説のどんでん返しをプロンプトで設計するでも扱った「読者に見せる情報と隠す情報の設計」と同じ原理だ。ご都合主義の問題も、どんでん返しの設計も、核にあるのは「読者の予測をどうコントロールするか」という一点に尽きる。

まとめ

  • AI小説のご都合主義は、プロンプトに「制約条件」を加えるだけで構造から直せる
  • 「偶然を禁止し、キャラの選択だけで展開を動かす」——この1行が効く
  • 制約条件の場面別テンプレートはBL Prompt Kit(BOOTH)で公開中。キャラ設定の管理にはキャラノート(β)を併用すると、設定のブレも同時に防げる

CharaNote開発日記

「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。

CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。

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