ChatGPTに「ヤンデレの推しが夢主に執着する話を書いて」と頼んだら、推しは丁寧語で「あなたが大切だから」と語り始め、最後は「信じて待つよ」で健全に着地した——そんな経験はないだろうか。
まず完成形を見てほしい。
氷上は夢主のスマートフォンを、自分のコートのポケットに滑り込ませた。 「——ごめん、見つからないね。もう少し、ここにいなよ」 微笑みは完璧だった。探すふりをする指先だけが、ほんの少し震えていた。
この「笑顔のまま相手を閉じ込める」質感を、AIに安定して出力させるには構造が要る。感情を直接指示してもAIは独占欲を丸めてしまう。設定の分離、レベル指定、演出の制約——この3つを組み合わせることで「怖い、でも離れたくない」が再現できる。
AIでヤンデレを書くと「ただの怖い人」になる理由
AIの「心情浄化」が独占欲を丸くする
AIには生成テキストのトーンを和らげるガードレールがある。「束縛」「独占」「嫉妬」といった要素を含む指示を出すと、AIは無意識にマイルドな方向へ書き換える。結果、ヤンデレが「ちょっと心配性な優しい人」に変換される。
「もっと束縛して」と指示を重ねても効果は薄い。AIは「束縛=避けるべき表現」と学習しているため、直球の指示ほど浄化される。必要なのは指示の構造そのものを変えることだ。
独占欲の「根拠」がないと暴力と区別がつかない
もう一つの問題は、AIが「なぜこの推しは執着するのか」を理解しないまま表面的な行動だけ模倣することにある。根拠なき束縛はただの暴力描写になる。
ヤンデレの魅力は「この人は壊れかけているけれど、壊れた理由に共感できる」という読者心理に支えられている。トラウマ、喪失体験、幼少期の孤独——独占欲の根っこにある「痛み」を設定に埋め込まないと、AIは行動だけを模倣して心を書かない。
推しの設定をキャラ設定の完全ガイドの構造で作り、そこにヤンデレ特有の要素を追加していく。
ヤンデレ推しの設定シート——「表の魅力」と「裏の執着」を分離する
BL Prompt Kitの「キャラ設定シート」をヤンデレ専用にカスタマイズする。ポイントは「表の顔」と「裏の顔」を明確に分離して記述することだ。
表の顔:まず「好きになれる人」を設計する
ヤンデレが効くのは、推しに魅力があるときだけだ。最初から怖い人には読者は惹かれない。表の顔で「この人のことを好きになってしまう理由」を徹底的に作り込む。
■ 表の顔(周囲に見せている態度)
- 態度: 穏やかで理知的。相手の話を最後まで聞く。人前では決して声を荒らげない
- 口調: 「——そうだね」「大丈夫、僕がいるから」(丁寧で安心感のある語り方)
- 周囲の評価: 「あの人に嫌な顔をされたことがない」「完璧な紳士」
ここが薄いと、裏の顔が出たときに「なぜ夢主はこの人のそばにいるのか」の説得力が消える。
裏の顔:独占欲に「なぜ」を埋め込む
ヤンデレの核心は「裏の感情」セクションにある。ここに独占欲の根拠を3行で入れる。
■ 裏の顔(推しの内面・夢主には見せない側面)
- 独占欲の根: 幼少期に唯一の味方だった姉が失踪。「大切な人は自分が見ていないと消える」という確信がある
- 制御できない衝動: 夢主が他の男と話しているだけで視界が白くなる。笑顔のまま会話に割って入る
- 自覚: 自分の感情が異常だと理解しているが、止められない。その自覚がさらに追い詰める
- 絶対に言わない言葉: 「自由にしていいよ」「僕は平気だから」(本心で言えない言葉を明記する)
AIはこの3行目——「自覚があるのに止められない」——を読むと、行動描写に葛藤のレイヤーを加えるようになる。単なる「怖い人」ではなく「壊れかけている人」が書ける。
コピペ用テンプレート:ヤンデレ推し設定シート
以下の{...}を埋めて、AIの最初の指示に貼り付ける。推し設定のガイド記事で基礎を作ってから、このテンプレートでヤンデレ要素を上乗せする使い方がやりやすい。
【推し設定シート(ヤンデレ・溺愛)】
■ 基本情報
- 名前: {フルネーム}
- 年齢: {年齢}
- 職業: {職業}
- 外見: {特徴を3つまで}
■ 口調ルール
- 一人称: {俺/僕/私}
- 語尾の癖: {丁寧語ベース/断定系/etc}
- 平常時のセリフ例: {1つ}
- 独占欲が出たときのセリフ例: {1つ。表の顔と口調が変わるかどうかも指定}
- 夢主に対するセリフ例: {1つ}
■ 表の顔
- 周囲に見せている態度: {魅力的に見える理由}
- 周囲からの評価: {第三者目線で1行}
■ 裏の顔(ヤンデレ要素)
- 独占欲の根: {なぜ執着するのか。過去のトラウマや喪失体験を1-2行}
- 制御できない衝動: {具体的な行動で1つ}
- 自覚の有無: {異常だと分かっているか/分かっていないか}
- 絶対に言わない言葉: {本心では言えない台詞を1つ}
■ 夢主との関係
- 関係性: {現在の立場}
- 推しから夢主への態度: {表向きの接し方}
- 推しの本音: {夢主への本当の感情}
- 溺愛レベル: {1〜5。次の章を参照}
■ 演出ルール
- 感情は説明しない。表情・沈黙・動作・セリフだけで表現する
- 推しが独占欲を見せるとき、声のトーンは{上がる/下がる/変わらない}
- 甘い言葉と怖い行動を{同時に出す/交互に出す}
テンプレートの「絶対に言わない言葉」が地味に効く。AIは「言わない」と指定された言葉の周辺を避けて代替表現を探すため、結果的にキャラの言い回しに独自性が生まれる。
溺愛の重さを5段階で制御するプロンプト設計
ヤンデレと言っても、「ちょっと独占欲が強い甘え方」から「監禁寸前の束縛」まで幅は広い。この濃度を5段階で数値指定する。
| レベル | 名称 | 行動の目安 | 演出キーワード | |--------|------|-----------|---------------| | 1 | 甘い独占 | さりげなく他の男との間に入る、荷物を持つ | 自然、保護欲 | | 2 | 重い好意 | 予定を把握している、夢主の好みを全部知っている | 観察、記憶 | | 3 | 歪んだ献身 | 夢主の交友関係に干渉し始める、嘘で引き留める | 微笑のまま、声だけ冷たい | | 4 | 閉じた世界 | 物理的に逃げ道を塞ぐ、夢主のスマホを隠す | 沈黙、指先の震え | | 5 | 壊れた愛 | 自傷を匂わせて夢主を縛る、「僕がいなくなっても」 | 泣きながら笑う |
プロンプトに「溺愛レベル: 3」と書くだけでは、AIはこの表を知らない。重要なのはレベルの説明文を設定シートの直後に1行添えることだ。
【溺愛レベル: 3 — 歪んだ献身。推しは微笑みを崩さないまま夢主の交友関係に介入する。声のトーンは変わらないが、目だけが笑っていない】
この1行があるかないかで、AIの出力の解像度がまったく変わる。
before/after:レベル2とレベル4の差
同じ「夢主が男友達と電話しているのを見た推し」のシーンで比較する。
レベル2(重い好意) 氷上は廊下の角で足を止めた。夢主の笑い声が聞こえる。知らない声の相手。電話を切った夢主に、氷上は何食わぬ顔で近づいた。 「——楽しそうだったね。誰?」 名前を聞いて、ほんの一拍だけ黙った。「……そっか」と微笑んで、何事もなかったように話題を変えた。
レベル4(閉じた世界) 氷上は廊下の角で足を止めた。夢主の笑い声が聞こえる。知らない声の相手。 電話を切った夢主が振り向くと、氷上がいた。いつから立っていたのか、わからない。 「——充電、切れそうだったから」 差し出されたモバイルバッテリーのケーブルが、いつの間にか夢主のスマートフォンに刺さっていた。通話履歴の画面が、一瞬だけ氷上の視界に入る。 「ね、今日はうちでご飯食べよう。もう買ってきちゃったから」 微笑みは完璧だった。
レベル2は「観察している」だけ。レベル4は「行動で支配している」。AIに数値と説明文で指定することで、この差をコントロールできる。
ヤンデレ描写の3つの鉄則プロンプト
溺愛レベルとは別に、ヤンデレ描写の品質そのものを上げる鉄則が3つある。演出ルールとしてプロンプトに含める。
鉄則1:行動と沈黙で見せる
「嫉妬した」「独占欲が湧いた」と書かせない。感情が薄くなる問題の対策記事で解説した「動作→沈黙→一言」の構造を使う。
【演出ルール・ヤンデレ】
- 推しの独占欲や嫉妬を心情説明で書かない
- 代わりに:表情が一瞬止まる → 何かを飲み込む動作 → 表の顔に戻る の3ステップで描写する
- 読者が「今、この人の中で何が起きたか」を想像する余白を必ず残す
鉄則2:甘さと怖さを同じ動作に乗せる
ヤンデレの醍醐味は「甘い」と「怖い」が同時に存在する瞬間だ。AIにこれを書かせるには、一つの動作に二つの意味を持たせる指示が有効。
【描写の制約】
- 推しの行動は常に2つの解釈ができるように書く
例:「マフラーを巻いてあげる」→ 表の意味は「寒そうだから」→ 裏の意味は「首に自分の匂いを残す」
- どちらの意味で読むかは読者に委ねる。地の文で答えを書かない
この制約を入れると、AIは「傘を差し出す」「送り迎えをする」「料理を作って待っている」といった行動のすべてに裏の意味を仕込むようになる。
鉄則3:夢主の反応で読者の感情を設計する
夢小説で最も重要なのは夢主の反応だ。夢主が「怖い」と思えば読者も怖い。夢主が「怖いのに離れられない」と感じれば、読者もその引力を体感する。
【夢主の反応ルール】
- 夢主は推しの異常性に「うっすら気づいている」が、確信できないでいる
- 推しの行動のたびに「気のせいかもしれない」と自分を説得する描写を入れる
- 夢主が恐怖を感じる場面と、推しの優しさに心が傾く場面を交互に配置する
「気のせいかもしれない」が読者を物語に引き込む鍵になる。推しの行動が「善意」なのか「支配」なのか判断がつかない状態こそ、ヤンデレ夢小説の没入感の正体だ。シリアス夢小説の書き方で解説した「痛みの設計」と組み合わせると、読者の心を掴む力がさらに上がる。
シーン別プロンプトテンプレート集
以下のテンプレートは設定シートと演出ルールを貼り付けた後に追加する。BL Prompt Kitの「シーン生成プロンプト」の構造をベースに、ヤンデレ向けにカスタマイズした。
日常に滲む独占欲シーン
【シーンの演出指示】
■ ゴール: 推しの独占欲が日常の何気ない行動に滲んでいることを、夢主が「ほんの少しだけ」気づきかける
■ 感情の方向:
推し: 平穏(表面)→ 内側で独占欲が静かに動く → 一つの行動に出る → 表の顔に戻る
夢主: 安心 → 小さな違和感 → 「考えすぎかな」と流す
■ キーワード: 笑顔、沈黙、距離が近い
■ 禁止事項: 推しに直接的な独占発言をさせない。暴力描写を入れない
■ 分量: 1,000字程度
嫉妬が爆発するシーン
【シーンの演出指示】
■ ゴール: 推しの表の顔が一瞬だけ剥がれ、裏の感情が漏れる
■ 感情の方向:
推し: 平穏 → 嫉妬の引き金 → 表の顔が揺らぐ → 無理やり戻す(でも声だけ冷たい)
夢主: 驚き → 恐怖に近い感情 → 推しの手が震えていることに気づく → 怖いのに手を握り返す
■ キーワード: 声のトーンが変わる、目が笑っていない、指先
■ 禁止事項: 推しに怒鳴らせない。物理的な暴力を描かない。「好きだから」と直接言わせない
■ 分量: 1,200字程度
「演出ルール」「禁止事項」「感情の方向」の3点を必ず指定する。この3点がないと、AIは嫉妬シーンを「怒って→仲直り」のテンプレートで処理してしまう。禁止で縛ることで、AIは別の表現ルートを探し始める。そのルートにこそ、読者の心を掴むヤンデレ描写がある。
まとめ
AIでヤンデレ・溺愛の夢小説を書くために必要なのは、「怖くして」という指示ではなく構造の設計だ。
- 設定シートで「表」と「裏」を分離する。表の魅力が強いほど、裏が見えたときの衝撃が大きくなる
- 溺愛レベルを5段階で指定する。数値+説明文の1行で、AIの出力の濃度が変わる
- 3つの鉄則プロンプトで演出を縛る。感情説明禁止、二重の意味、夢主の「気のせい」反応
「怖いけど好き」は偶然では生まれない。構造で設計するから再現できる。
テンプレートのフルキット(キャラ設定シート・シーン生成プロンプト・演出ルール一式)はBL Prompt Kit(BOOTH)で配布している。ヤンデレ以外のキャラ類型にも対応しているので、推しの設定を構造化する出発点として使える。
キャラ設定をAIに長期記憶させたいなら、キャラノート(β)も試してみてほしい。設定シートを一度登録すれば、どのAIツールにもワンクリックで渡せる。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。