「......なんか、全部AIが書いた感じがする」
3,000字の出力をスクロールする。設定は渡した。キャラも作った。なのに目が滑る。途中で読むのをやめて、ブラウザのタブを閉じた。自分の物語だったはずなのに、他人が書いたあらすじを読んでいる気分だけが残った。
原因はAIの性能ではない。「任せ方」の設計にある。
完成形: 人間×AIの共作で生まれた1シーン
まず結果から見てほしい。以下は「人間が場面構造を設計し、AIが描写を埋めた」シーンの実例だ。
霧が地面を這っていた。
泉谷はトラックの第3レーンに立ったまま動かない。左膝にテーピングを巻いた足で、スタートラインの白線をなぞっている。走るためではない。ただ線の感触を確かめるように、爪先を前後させている。
「また来てんじゃん」
天城がフェンス越しに声をかけた。イヤホンを片耳だけ外す。ランニングウェアの裾からタトゥーが覗いている。
泉谷は顔を上げなかった。
「......足、痛い?」
「痛くない」
嘘だとわかる声だった。天城はフェンスに背中を預けて、イヤホンをもう片方も外した。
このシーンをAIにどう書かせたか。キャラ設定を流し込んで「書いて」と頼んだわけではない。人間が先に設計したのは 場面の「間」 だ。
なぜ「丸投げ」では物語が死ぬのか
舞台演出に「間(ま)」という概念がある。台詞と台詞のあいだ、動作と動作のあいだに置く沈黙や静止。この「間」が芝居に呼吸を与え、観客が自分の感情で空白を埋める余地を作る。
AI小説でも同じことが起きている。
丸投げすると、AIは空白を恐れる。すべてを説明し、すべてを埋めようとする。「泉谷は膝の痛みに悲しみを覚えた」「天城はそんな泉谷を見て胸が締めつけられた」——心情の説明が並び、読者が自分で感じ取る余地が消える。
人間の仕事は「間」の設計だ。 どこで沈黙を置くか。どこで視線が動くか。どの感情を「書かない」か。この骨格を決めるのは人間にしかできない。
AIの仕事は、その骨格に沿って台詞と描写のディテールを埋めること。霧の這い方、テーピングの巻かれた膝、イヤホンを外す動作——こうした具体描写の生成はAIが得意とする領域だ。
つまり共作の構造はこうなる。
- 人間: シーンのゴール、感情の方向、「間」の位置、禁止事項を決める
- AI: 設定に沿った台詞・動作・風景描写を生成する
この分業を1本のプロンプトに落とし込んだのが、次のセクションで紹介する設計だ。
共作プロンプトの設計: 人間の仕事とAIの仕事を分ける
先ほどの天城×泉谷のシーンを生成した完成形プロンプトがこれだ。
あなたは小説の演出家です。以下の設計に基づいてシーンを執筆してください。
【人間が設計した「間」】
■ シーンのゴール: 天城が泉谷の嘘に気づくが、指摘しない
■ 感情の方向:
天城: 軽い声かけ → 泉谷の声を聞いて軽薄さが消える
泉谷: 無反応を装う → 天城がいることに少しだけ安堵する(本人は認めない)
■ 「間」の設計:
- 天城の呼びかけ → 泉谷が顔を上げない(3秒の沈黙)
- 「痛い?」→「痛くない」→ 嘘だとわかる声(ここで場面を止める)
- 天城がイヤホンを外す動作で「もう少しここにいる」を示す。台詞にしない
■ 禁止事項:
- 心情を地の文で説明しない
- 天城に「大丈夫?」と言わせない
- 泉谷に膝の故障について語らせない
【AIが埋める描写】
- 早朝の陸上トラック、霧が出ている
- テーピングの巻かれた左膝
- イヤホン、タトゥー(天城のキャラ要素)
- 文体: 硬質で短い文。800字程度
ポイントは**「人間が設計した間」と「AIが埋める描写」を明示的に分けている**こと。AIは「何を書くか」だけでなく「何を書かないか」の指示も受け取っている。
before/afterで比較する。同じ設定を「丸投げ」した場合と「間を設計」した場合の差だ。
丸投げプロンプト(before) 天城は泉谷の姿を見て心配になった。膝が痛そうだと思ったが、声をかけるべきか迷った。「大丈夫か?」と聞くと、泉谷は静かに「大丈夫」と答えた。天城はその言葉を信じられなかった。
間を設計したプロンプト(after) 「......足、痛い?」 「痛くない」 嘘だとわかる声だった。天城はフェンスに背中を預けて、イヤホンをもう片方も外した。
▶ 変えたのは「何を書かないか」を指定しただけ。心情説明を禁止し、動作だけで感情を示す「間」を設計した。
この構造はBL Prompt Kitの「Director-Actor方式」を応用したものだ。人間がディレクター、AIがアクターとして動く分業フレームは、プロンプトテンプレートの構造設計で詳しく解説している。
空テンプレート: 自分の物語に書き換えて使う
あなたは小説の演出家です。以下の設計に基づいてシーンを執筆してください。
【人間が設計した「間」】
■ シーンのゴール: {1文で。例: AがBの本音に気づくが指摘しない}
■ 感情の方向:
{キャラA}: {開始の感情} → {終了の感情}
{キャラB}: {開始の感情} → {終了の感情}
■ 「間」の設計:
- {沈黙・動作・視線の動きを具体的に}
- {「ここで場面を止める」ポイントを1つ}
- {台詞にしない感情を1つ、動作で示す}
■ 禁止事項:
- {キャラAに言わせない台詞}
- {書いてはいけない心情説明}
- {安易な解決をさせない制約}
【AIが埋める描写】
- {場所・時間・天候}
- {キャラAの外見的特徴やアイテム}
- {キャラBの外見的特徴やアイテム}
- 文体: {硬質/叙情的/会話多め}。{字数}字程度
テンプレートの {シーンのゴール} {感情の方向} {禁止事項} を埋めるのが人間の仕事。残りの描写生成がAIの仕事。この境界線が曖昧なまま「いい感じに書いて」と頼むから、物語が平坦になる。
このテンプレートの全パターン——すれ違い、距離が縮まる、感情爆発など場面別の演出指示セットは BL Prompt Kit(BOOTH) に収録されている。
応用: ジャンル別の共作スタイル
「間」の設計はBLに限らず、あらゆるジャンルで機能する。ジャンルごとに「人間が握るべきもの」が変わるだけだ。
夢小説の場合: 人間が設計するのは「推しキャラの地雷行動」の禁止リスト。「このキャラは絶対に泣かない」「敬語を崩さない」といった不可侵ラインを人間が決め、AIはその制約の中で甘いシーンを組み立てる。推しの解像度を守る設計については文体コントロールの3レイヤーが参考になる。
ファンタジー・なろう系の場合: 人間が設計するのは「世界の物理法則」と「伏線の配置」。魔法体系のルール、回収すべき伏線の位置を人間が固定し、AIはそのルール内で戦闘描写や日常シーンのディテールを埋める。
日常系・短編の場合: 人間が設計するのは「オチの手前で止める位置」。結論を書かない、答えを出さない——その余韻を設計するのが人間の仕事。AIは「止める位置」までの描写を、指定された文体で丁寧に埋めていく。
共通するのは、人間が「書かないこと」を決め、AIが「書くこと」を実行するという分業構造だ。
まとめ
- AI小説の共作は「何を書かせるか」ではなく「何を書かせないか」の設計から始まる
- 人間が場面の「間」と禁止事項を決め、AIが描写を埋める——この分業が自然な文章を生む
- 空テンプレートの
{シーンのゴール}を1行書くところから始めてみる
場面別の演出指示テンプレート一式は BL Prompt Kit(BOOTH) で公開している。キャラ設定を一元管理してAIに渡す仕組みは キャラノート(β) で開発中だ。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。