AI創作ラボ

AIで小説を書くための実践ガイド

2026-04-04AI 百合小説 書き方

AI百合小説の書き方——空気感を守るプロンプト3ステップ

「なんか……これ、百合じゃなくない?」

画面に並ぶ文章をスクロールする。もう一度読み返す。設定は女の子ふたり。関係性も、場所も、指定したとおり。なのに出てくるのは少女漫画の実況中継みたいな地の文だった。「胸がドキドキした」「目が合って恥ずかしくなった」——AIが吐き出す感情の説明文を、選択して、削除する。

百合小説の核は「書かれていない感情」にある。視線が逸れるタイミング、指先が触れなかった距離、言いかけてやめた言葉。その余白を読者が埋めるから尊い。問題は、AIがこの余白を勝手に埋めてしまうことだ。

AIが百合の空気感を壊す理由

AIは感情を「説明」したがる。学習データの大半が「感情を言語化する」テキストだから、指示がなければ感情を地の文で直接書く。これはモデルの特性であって欠陥ではない。

百合小説で致命的なのは、この説明がふたりの間の空気を消してしまうこと。「嬉しかった」と書かれた瞬間、読者は自分で感情を想像しなくていい。想像しなくていいから、没入が浅くなる。

BLでも同じ問題は起こるが、百合はとりわけ「空気感」への依存度が高いジャンルだ。読者が求めているのは感情の説明ではなく、感情の気配

解決策は「禁止事項」の設計にある。AIに「書くな」と伝えることで、初めて行間が生まれる。

ステップ1: キャラ設定シートを百合仕様に書く

BL向けのキャラ設定シートは「攻め/受け」の力学を前提にしている。百合にそのまま転用するとキャラの関係性がぎこちなくなる。

百合で重要なのは、どちらが距離を詰め、どちらが距離を保つか。この力学を「距離のダイナミクス」として設定する。

以下は百合版の記入例。

【キャラクター設定シート(百合版)】

■ 基本情報
- 名前: 朔波 澄(さくなみ すみ)
- 年齢: 29歳
- 職業: 図書館司書
- 外見の特徴: 背が低い、細い手首、髪をいつも耳にかけている

■ 口調ルール
- 一人称: 私
- 二人称: 氷見さん(名字+さん。崩さない)
- 語尾: 〜ですね、〜かもしれません(丁寧語を崩さない壁)
- 話し方: 穏やかだが核心に触れない。質問で返すことが多い
- 絶対に使わない言葉: 「好き」「寂しい」など感情の直接表現
- セリフ例:
  1.「……ああ、その本、返却棚に戻しておきますね」(平常時)
  2.「氷見さんは、いつもまっすぐですね」(感情が揺れたとき。褒めることで距離を取る)
  3.「……帰らないんですか? もう閉館ですけど」(栞に対して。追い出す口実で引き留める矛盾)

■ 性格
- 表の顔: 穏やかで丁寧。誰にも同じ温度で接する
- 裏の顔: 栞にだけ視線が長くなる自分に気づいている。が、認めない
- 矛盾: 距離を保ちたいのに、栞がいない日は閉架書庫の整理に逃げる

■ 距離のダイナミクス
- 役割: 距離を保つ側
- 栞に対する態度: 丁寧語という壁越しに、世話を焼く
- 栞に対する本音: この人が来る水曜だけ、カウンターの花を替えている。それが何を意味するか考えたくない
- 関係性の現在地: 「常連さんと司書」。澄だけが名前を呼べない

ポイントは3つ。

  • 「攻め/受け」ではなく「距離のダイナミクス」で設計する。百合の緊張感は「どちらが先に触れるか」ではなく「どちらが先に認めるか」に宿る
  • 口調の壁を設定する。丁寧語が崩れる瞬間=感情が漏れる瞬間になる
  • 矛盾を具体的な行動で書く。「距離を保ちたいのに閉架書庫に逃げる」のように行動レベルで矛盾を指定すると、AIが描写しやすい

キャラ設定シートの構造を詳しく知りたい場合は、AIキャラ設定の作り方と崩壊を防ぐ構造化のコツで解説している。

ステップ2: 演出ノートで「行間」を設計する

キャラができたら次はシーン。AIにいきなり本文を書かせると感情を全部説明してしまう。演出ノートを先に出力させることで、「何を書いて何を書かないか」をAI自身に設計させるのがコツだ。

まず、演出ルールなしの出力を見てほしい。

演出ルールなし(before) 澄は栞のことが気になっていた。水曜日に栞が図書館に来ると嬉しくて、心臓が速くなるのを感じた。「氷見さん、今日も来てくれたんですね」と笑顔で声をかけた。栞も澄のことを意識していた。

演出ルールあり(after) 栞がいつもの席に着く。閲覧席の端、カウンターから見える位置。毎週同じ席なのに、毎回「ここ、空いてますか」と聞く。 澄は返却処理中の画面に目を落とした。バーコードリーダーを握る。同じ本を二度スキャンしていることに、三冊目で気づいた。 「朔波さん、この棚の本って、予約できますか」 栞の声が近い。カウンター越しに差し出されたメモの端が、澄の指先のすぐ横で止まった。 「……ええ、お調べしますね」 声がわずかにかすれた。水を飲むふりで間を取った。

▶ 変えたのは"感情を地の文で説明する代わりに、同じ本の二度スキャン・指先の距離・声のかすれで間接的に示す"だけ。

beforeでは「嬉しくて、心臓が速くなるのを感じた」と書かれた時点で、読者の想像する余地がない。afterでは「同じ本を二度スキャンしていた」という動作の失敗が、澄の動揺を読者に補完させる。

この差を生むのが演出ノート付きシーン生成プロンプト。以下が完成形だ。

あなたは百合小説の演出家(ディレクター)です。
以下のキャラクター設定と演出指示に基づいて、シーンを執筆してください。

【出力フォーマット】
パート1「演出ノート」: 各キャラの心情、感情をどの動作で表現するか、禁止事項の確認
パート2「本文」: 演出ノートを踏まえたシーン本文

【演出ルール】
- 感情は説明しない。表情・沈黙・動作・セリフだけで表現する
- 「嬉しかった」「ドキドキした」のような心情説明は禁止
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする
- 百合の「空気感」を最優先する:ふたりの間にある沈黙や距離感を丁寧に描写する
- 視線の動きを具体的に書く(「目が合った」ではなく「相手の襟元で視線が止まった」)

【文体指示】
- 視点: 三人称(距離を保つ側寄り)
- 文体: 硬質で短い文。体言止めを混ぜる
- 分量: 800字程度

---

{ここにふたりのキャラ設定シートを貼り付ける}

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【シーンの演出指示】
■ このシーンのゴール:
澄が栞への感情を「常連さんへの親切」では説明できなくなる瞬間

■ 感情の方向:
澄: 平静を装う → 動揺を隠しきれない(でも認めない)
栞: いつもどおり → 澄の変化にわずかに気づく

■ 場面設定:
公立図書館の閲覧室。水曜の午後。梅雨の曇り空。利用者は少ない

■ キーワード:
- 返却期限の過ぎた本
- 雨の匂い
- 「また来ます」

■ 禁止事項:
- 告白させない
- 「好き」を使わない
- 身体的接触をさせない(指が触れるのも禁止)

禁止事項が百合の空気感を作る。「指が触れるのも禁止」と指定するからこそ、AIは「触れそうで触れない距離」を描写せざるを得なくなる。この"書かれなかった接触"が、読者の中で百合として完成する。

感情描写のプロンプト設計をさらに深掘りしたい場合は、AI小説の感情描写を「説明」から「描写」に変えるプロンプト設計も参考になる。

ステップ3: 空テンプレートで自分だけの百合を組み立てる

ステップ1・2のプロンプトは、キャラと場面を入れ替えるだけで別の百合に応用できる。

【キャラクター設定シート(百合版)】

■ 基本情報
- 名前: {キャラ名A}
- 年齢: {年齢}
- 職業: {職業}
- 外見の特徴: {3つまで}

■ 口調ルール
- 一人称: {私/あたし/うち/etc}
- 二人称: {名字+さん/名前呼び/あだ名/etc}
- 語尾: {丁寧語/タメ口/方言/etc}
- 絶対に使わない言葉: {感情の直接表現を制限}

■ 距離のダイナミクス
- 役割: {距離を保つ側 / 距離を詰める側}
- {キャラ名B}に対する態度: {表に見せる接し方}
- {キャラ名B}に対する本音: {言えない感情を行動レベルで}
- 関係性の現在地: {友人/同僚/先輩後輩/etc}
【シーンの演出指示(百合版)】

■ このシーンのゴール:
{ふたりの関係が一段階変わる瞬間}

■ 場面設定:
{場所}、{時間帯}、{天気・季節}

■ キーワード:
- {具体的な小道具や動作}
- {五感に関わる要素}
- {ふたりだけの共通言語になるもの}

■ 禁止事項:
- {告白させない}
- {直接的な感情名を使わない}
- {身体的接触の範囲を制限する}

{プレースホルダ} を自分の設定で埋めるだけで、百合の空気感を保ったシーンが生成できる。この記事では社会人百合の記入例を1ジャンル分だけ紹介した。学生百合・ファンタジー百合の記入例と、シーン種類別(すれ違い・距離が縮まる・感情爆発)の応用パターン全部入りはBL Prompt Kit(BOOTH)のフルキットに収録している。

なぜこのプロンプトで空気感が出るのか

ここまでのステップは、つまるところ情報の引き算だ。

通常の文章では情報を足すほど伝わりやすくなる。だが百合小説では逆。感情を書けば書くほど、読者が自分で感じる余地が減る。

WebサイトのUIでも、余白(ホワイトスペース)が少ないページは読みづらい。情報が詰まりすぎると脳は処理を放棄する。逆に適切な余白があると、脳は自分でその間を補完しようとする。百合の「行間」も同じ原理で動いている。

  • 「好き」と書かない → 読者が「この子、好きなんだ」と自分で気づく
  • 指が触れない → 読者が「触れてほしい」と感じる
  • 名前を呼べない → 読者が「呼びたいんだろうな」と想像する

プロンプトの「禁止事項」は、この余白を設計するパラメータだ。AIに「書くな」と指示するたびに、読者が補完する余地が一つ増える。

百合の「尊い」は作者が作るものではない。読者の想像力が作るもの。プロンプトの仕事は、その想像力が動き出す起点を設計することだ。

まとめ

  • ステップ1: キャラ設定シートで「距離のダイナミクス」を設計する。攻め/受けではなく、どちらが距離を保ちどちらが詰めるかを決める
  • ステップ2: 演出ノート付きシーン生成で「禁止事項」を武器にする。書かないことで行間が生まれる
  • ステップ3: 空テンプレートに自分のキャラを流し込む。設定を変えるだけで別の百合に展開できる

AIキャラ設定の基本的な考え方はnoteでも解説している → AIキャラ崩壊を防ぐ構造と対策

キャラ設定をAIに毎回コピペするのが面倒なら、キャラノート(β)で設定シートをワンクリックでAIに渡せる。テンプレートのフルキットはBL Prompt Kit(BOOTH)で百合版記入例・シーン別全パターンを収録。

CharaNote開発日記

「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。

CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。

進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。