「……また"僕"に戻ってる」
Geminiに出力させた夢小説の3章目を読み返す。1章目は「俺」で話していた推しが、いつの間にか「僕」になっている。設定シートに書いたはずの一人称が、会話が長くなるにつれて消えた。200万トークンを信じて長編に挑んだのに、推しの声は3,000字で溶けていった。
Geminiの長文脈は、使い方を間違えると「設定が全部見えているのに無視される」という矛盾を起こす。推しの声を最後まで守るには、設定の「量」ではなく「構造」を変える必要がある。
Geminiが夢小説に向いている理由——ただし「全部渡す」だけでは足りない
ChatGPTの夢小説プロンプトは「短く、必要最低限」が基本。コンテキストウィンドウが限られるから、設定を100字単位に圧縮して精度を上げる。
Gemini 2.5 Proは200万トークンのコンテキストを一度に処理できる。キャラ設定の全項目、前の章の本文、関係性の推移——圧縮しなくていい。ChatGPTでは泣く泣く削っていた「セリフ例」や「場面ごとの態度の違い」を、そのまま渡せる。
ただし200万トークンに設定を「雑に全部貼る」と、Geminiは情報の重みを均等に扱い、推しの一人称より世界観の説明に引っ張られて口調がぶれる。
設定に優先順位をつけ、構造化して渡す。これがGeminiの記憶力を推しの一貫性に変換するコツになる。
ステップ1: 推しの設定シートを「表と裏の二層」で渡す
夢小説の推しに必要なのは「性格: クール」ではない。場面で切り替わる二面性——ファンや来客の前での推しと、あなた(夢主)の前での推しを分離して書くこと。
水族館飼育員・冴島航(29歳)の例で完成形を見せる。
あなたは夢小説の執筆アシスタントです。以下のキャラ設定に基づいて、指示されたシーンを執筆してください。
【推しキャラ設定: 冴島 航(29歳)】
- 職業: 水族館飼育員(海獣担当。とくにゴマフアザラシ)
- 外見: 日焼けした肌。前髪が長く、片目が隠れている
- 性格の表: 穏やか。来館者に「お気に入りの子、決まりました?」と笑顔で話しかける接客モード
- 性格の裏: 担当の生き物への執着が異常に強い。閉館後、水槽の前で独り言を言う。人間より動物と過ごす時間のほうが長い生活を、本人は問題だと思っていない
■ 口調ルール(最重要)
- 一人称: 俺(あなたの前、閉館後)/ 僕(来館者対応時)
- 二人称: あんた(あなたに対して。名前で呼ぶのは当分先)/ お客さん→○○さん(業務中の変化)
- 語尾の癖: 〜だろ、〜じゃん(素のとき)/ 〜ですよ、〜ですね(接客モード)
- 絶対に使わない言葉: 「好き」「会いたかった」「寂しい」——感情を直接名指しする言葉は使わない
- セリフ例:
1. 「……ああ、また来たの。律儀だね、あんた」(平常時。素っ気ないが目はあなたを見ている)
2. 「触んな。……いや、今のは違う。手、冷たいから」(動揺したとき。言い訳が下手)
3. 「閉館だよ。——帰んないなら、裏、来る?」(あなたに対して。誘っている自覚がない)
■ 関係性
- あなたに対する態度: 年パスで毎週来る常連客を「変なやつ」と思いつつ、閉館間際に来る習慣を把握している。差し入れのコーヒーを「いらない」と言って飲む
- あなたに対する本音: 「なんで毎週来るんだろう」と考える時間が増えている。それが気になっていること自体に気づいていない
- 現在の距離: 閉館後のバックヤードに入ることを黙認している。特別扱いしている自覚はない
■ 演出ルール
- 感情は説明しない。冴島の仕草・視線・沈黙だけで表現する
- 感情が高ぶるほど言葉が減り、代わりに手元の作業(飼育日誌を書く、水槽の温度を確認する)が増える
このテンプレートは「BL Prompt Kit」夢小説版の構造を応用した記入例です
ポイントは口調ルールの二層構造。接客モードの「僕」と閉館後の「俺」を分離したことで、Geminiは場面に応じて一人称を切り替える。「性格: 穏やか」だけでは「僕」一本になり、推しの"素"が出てこない。
推しの口調を場面ごとに守る設定の詳しい設計方法は、AI夢小説の「推し」設定——二面性と矛盾を5層で組む方法で解説している。
これを自分の推しに書き換えるための空テンプレートを載せる。
【推しキャラ設定: {推しの名前}({年齢}歳)】
- 職業: {職業}
- 外見: {外見の特徴2〜3個}
- 性格の表: {人前での態度・第一印象}
- 性格の裏: {あなたの前、または独りのときの本性}
■ 口調ルール(最重要)
- 一人称: {素のとき} / {人前のとき}
- 二人称: {あなたへの呼び方(初期)} → {親しくなってからの呼び方}
- 語尾の癖: {素のとき} / {人前のとき}
- 絶対に使わない言葉: {推しが言わなそうなセリフ3〜5個}
- セリフ例:
1. 「{平常時のセリフ(態度と仕草を括弧内に)}」
2. 「{感情が揺れたときのセリフ}」
3. 「{あなたに対する特別なセリフ}」
■ 関係性
- あなたに対する態度: {表面的な接し方。矛盾を含める}
- あなたに対する本音: {本人が気づいていない感情}
- 現在の距離: {関係性の現在地。告白済みではなく過程の途中}
■ 演出ルール
- 感情は説明しない。{推しの名前}の{仕草の癖}・{視線の特徴}・沈黙だけで表現する
- 感情が高ぶるほど言葉が減り、代わりに{推しの職業に関連する動作}が増える
このテンプレートの記入例付きフルキット(推し×夢主×関係性×シーン指示の4枚セット)はBL Prompt Kit(BOOTH)で全パターンを公開している。
ステップ2: 夢主の設定を「反応装置」として組む
夢小説で省略されがちなのが「夢主(あなた)」の設定。読者=夢主だから不要と思われがちだが、Geminiにとっては違う。夢主の口調や反応パターンが未定義だと、AIは夢主を「はい」「そうですね」しか言わないNPCにしてしまう。
夢主は推しの感情を引き出す反応装置として設計する。
【夢主設定】
- 職業: フリーの動画編集者。深夜作業で生活が不規則
- あなたの習慣: 閉館間際の水族館に毎週通う。冴島が担当するアザラシの前が定位置
- 口調: 「あ、すみません」が口癖。丁寧だが、冴島が生き物の話をしているときだけ敬語が崩れる
- 推しへの距離感: 名札で名前を知っているが、呼んだことがない。呼びかけようとしてはやめる
夢主に**「敬語が崩れるトリガー」**を仕込んでおく。Geminiは推しの得意分野の話題が出たときだけ夢主の口調を変化させる。この微細な揺らぎが、推しと夢主の距離感に動きを生む。
ステップ3: Geminiの200万トークンを活かすシーン指示——before/afterで精度を確認する
設定シートを渡した上でシーンを指示する。ここにGemini特有のコツが1つある。
ChatGPTでは「1シーン1指示」が基本。Geminiでは前の章の本文を丸ごと貼ってから次のシーンを指示する。200万トークンがあるから、前の章で冴島が言った台詞をGeminiは覚えている。その結果、次の章の冴島の態度が「前回からの地続き」になる。
基本設定だけ渡して書かせた場合と、設定シートを渡して書かせた場合を比べる。
設定シートなし(before) 冴島は優しく微笑んだ。「いつも来てくれてありがとう。今日は特別にバックヤードを案内するよ」。彼は夢主の手を取り、水槽の裏側へと導いた。「僕はここが一番好きなんだ。君と一緒に見られて嬉しいよ」
設定シートあり(after) 「……閉館だよ」 冴島は飼育日誌を閉じずに言った。ペンを持ったまま、視線だけがこちらに向く。 「帰んないなら——裏、来る?」 バックヤードの蛍光灯は青白い。水槽の濾過装置が低く唸る音だけが響く。冴島はアザラシの体温記録を確認しながら、背を向けたままだった。 「そこ、座っていいよ。……コーヒー、まだあったかい」 紙コップを差し出す手が、一瞬だけ止まる。目が合う前にそらされる。
▶ 変えたのは「口調ルールの二層構造」と「感情を仕草で出す演出ルール」だけ。beforeの「優しく微笑んだ」「嬉しいよ」が消え、代わりに「視線だけがこちらに向く」「目が合う前にそらされる」が現れた。推しの感情は読者が行間から読み取る。
設定の密度がAIの選択肢を狭める。「"好き"を使うな」と書けば、Geminiは"好き"の代わりに行動を探す。「感情が高ぶるほど言葉が減る」と書けば、告白シーンでも沈黙と仕草で構成しようとする。情報量が増えるほどAIの自由度が下がり、結果として"推しらしさ"が上がる——Geminiの200万トークンを夢小説に活かす核心はここにある。
推しの口調が章を超えて崩壊する原因と防止策は、AI小説の口調崩壊を防ぐ3つの構造的アプローチで詳しく解説している。
まとめ
Geminiで夢小説を書くプロンプトの要点は3つ。
- 推しの口調を「表と裏」の二層で渡す。一人称・語尾・禁止語を場面ごとに分離する
- 夢主を「反応装置」として設計する。敬語が崩れるトリガーなど、推しの感情を引き出す仕掛けを仕込む
- 前の章を丸ごと貼ってからシーンを指示する。200万トークンの記憶力で前章の文脈を維持する
記入例付き設定シート(推し・夢主・関係性・演出ルールの4枚組フルキット)はBL Prompt Kit(BOOTH)で全パターンを公開している。空テンプレートに自分の推しを埋めれば、この記事と同じ構造のプロンプトが完成する。
キャラ設定シートを複数のAIツールで使い回したいなら、キャラノート(β)で一元管理できる。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。