「なんか……全部同じ文体になるんだけど」
Grokに短編を3本書かせて、スクロールしながら読み返した。3本目のキャラ名だけ変えて、冒頭を重ねてみる。文章が、ほぼ一致していた。
Grokは創作の制約が少なく、出力速度も速い。だが「速く書ける」と「読める小説になる」は別の話。プロンプトの構造を変えれば、出力は変わる。
ステップ1: 「性格」ではなく「口癖と禁止語」を渡す
Grokに「性格:クール」とだけ指定すると、AIは「クールっぽい平均的なキャラ」を量産する。全員が「……そうか」と言い、全員が腕を組む。
必要なのは、性格ではなく行動の制約。一人称、語尾、絶対に使わない言葉——この3つを決めるだけで、キャラの輪郭が変わる。
以下はGrokにそのまま貼れる完成形プロンプト。
あなたは小説の演出家です。以下のキャラ設定を厳守して、指定シーンを執筆してください。
【キャラ設定:朝比奈 恭(30歳・薬剤師)】
- 一人称: 僕
- 語尾: 〜だよ、〜かな(柔らかい断定。疑問形多め)
- 話し方: 丁寧だが距離が近い。相手の名前を頻繁に呼ぶ
- 絶対に使わない言葉: 「怒る」「嫌い」「もういい」
- セリフ例:
「紡くん、今日も早いね。……僕も早いけど」
「別に怒ってないよ。怒ってたら、ここには来ないかな」
【キャラ設定:七瀬 紡(24歳・パン職人)】
- 一人称: 俺
- 語尾: 〜っす、〜すね(敬語崩れ。年上には敬語を使おうとして崩れる)
- 話し方: 短文。考える前に口が動くタイプ
- 絶対に使わない言葉: 「好き」「嬉しい」「ありがとうございます」
- セリフ例:
「あ、朝比奈さん。……また来たんすか」
「別に待ってたわけじゃないっすけど。余ったパン、置いときますんで」
【演出ルール】
- 感情は説明しない。動作・沈黙・セリフだけで表現する
- 「嬉しかった」「悲しかった」等の心情説明は禁止
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする
【シーンの指示】
場所: 早朝のパン屋の裏口。まだ薄暗い。
状況: 朝比奈が出勤前に七瀬の店の裏口で余ったパンを受け取るのが日課になっている。今日は七瀬の様子がいつもと違う。
ゴール: 七瀬が何かを隠していることに朝比奈が気づくが、追求しない。
分量: 800字程度
このプロンプトの実質は3カテゴリだけ。「口調のルール」「禁止語」「セリフ例」。性格をいくら書き連ねてもGrokは汲み取れないが、禁止語とセリフ例があれば「朝比奈っぽい台詞」と「七瀬っぽい台詞」を書き分けられるようになる。
キャラ設定の粒度と出力の関係はAIの小説でキャラ崩壊を防ぐプロンプト設計で構造から解説している。
ステップ2: 演出ルールで「説明文」を「描写」に変える
Grokの出力でもっとも多い問題が「感情の説明」。「彼は〜と感じた」形式の心情説明が、放っておくとほぼ毎段落に入る。
演出ルールの3行を追加するだけで、出力が変わる。同じシーンのbefore/afterを見てほしい。
演出ルールなし(before) 紡は朝比奈が来たことに少し嬉しくなった。でもそれを表に出すのは恥ずかしかった。「おはようございます」と普段より少し明るい声で挨拶した。朝比奈は紡の笑顔を見て、安心した。
演出ルールあり(after) 紡の手が止まった。生地を丸めていた指先が、一瞬だけ動きを止めて、また動き出す。 「……あ。朝比奈さん。早いっすね」 振り向かない。声だけ投げる。 朝比奈はいつものトレーに手を伸ばした。クリームパンが3個。いつもは2個だ。 「多いね、今日」 「……焼きすぎたんで」
▶ 変えたのは「感情を書くな。動作で見せろ」の3行を追加しただけ。
ここに情報設計の原理がある。beforeは「嬉しい」「恥ずかしい」「安心した」と全部書いてしまうから、読者は受け取るだけで終わる。afterは「クリームパンが3個。いつもは2個だ」——読者が自分で「あ、この子わざと多く焼いたな」と気づく。読者が自分の頭で補完した感情は、説明された感情の何倍も記憶に残る。
このテンプレートを自分のキャラに差し替えて使えるよう、空テンプレートも置いておく。
あなたは小説の演出家です。以下の設定を厳守してシーンを執筆してください。
【キャラ設定:{キャラ名A}({年齢}・{職業})】
- 一人称: {俺/僕/私/etc}
- 語尾: {語尾の癖}
- 話し方: {特徴を1行で}
- 絶対に使わない言葉: {3つ以上}
- セリフ例:
「{例文1}」
「{例文2}」
【キャラ設定:{キャラ名B}({年齢}・{職業})】
- 一人称: {俺/僕/私/etc}
- 語尾: {語尾の癖}
- 話し方: {特徴を1行で}
- 絶対に使わない言葉: {3つ以上}
- セリフ例:
「{例文1}」
「{例文2}」
【演出ルール】
- 感情は説明しない。動作・沈黙・セリフだけで表現する
- 「嬉しかった」「悲しかった」等の心情説明は禁止
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする
【シーン指示】
場所: {場所と時間帯}
状況: {何が起きているか}
ゴール: {このシーンで達成したいこと1つ}
分量: {800字 / 1500字}
上の記入例はBLだが、テンプレート自体はジャンルを問わない。夢小説でもなろう系でも、{キャラ名}と{シーン指示}を変えればそのまま使える。ジャンル別の記入例と、すれ違い・距離が縮まる・感情爆発などシーンパターン別の演出指示テンプレート全セットはBL Prompt Kit(BOOTH)のフルキットに収録している。
ステップ3: シーン分割で出力精度を安定させる
Grokに「3000字の短編を書いて」と指示すると、前半は良くても後半から描写が雑になる。キャラの口調も途中からブレ始める。
原因は長さではなく、ゴールの数。1プロンプトに「出会い → 距離が縮まる → すれ違い → 仲直り」を全部詰め込むと、AIが優先順位を見失う。
解決策はシンプル。1シーンにつきゴールを1つだけにして、シーンごとにプロンプトを分ける。
- シーン1のゴール:「紡が何かを隠していることに朝比奈が気づく」
- シーン2のゴール:「朝比奈が紡の秘密を偶然知ってしまう」
- シーン3のゴール:「紡が朝比奈に嘘をついたことを謝ろうとして、別の言葉が出る」
各シーンで前のシーンの出力をコンテキストとして貼り付ければ、キャラの口調も感情の流れも維持される。それでも口調がブレてきたら、キャラ設定の口調部分だけ抜き出して「口調リマインド」として再送する。5〜8ターンに1回で十分効く。口調崩壊の根本対策はAI小説の口調が崩れる原因と対策で詳しく扱っている。
Grokならではの強みと注意点
Grokは他のAIと比べて創作の制約が少ない。ChatGPTやClaudeが表現を丸めてくる場面でも、Grokはより踏み込んだ描写を返すことがある。葛藤や衝突を含むシーンでは、この特性が効く。
一方で注意点もある。
- 口調の安定性: 10ターン前後で口調がブレやすい。口調リマインドの定期送信が有効
- 説明に流れやすい: 演出ルールの3行を入れないと、ほぼ確実に心情説明が入る
- 長編のプロット設計: プロット全体の構成力はChatGPTが上。プロット設計はChatGPTで行い、各シーンの執筆をGrokに任せる分業も有効
まとめ
Grokで小説を書くプロンプトのポイントは3つ。性格ではなく「口癖と禁止語」でキャラを定義する。演出ルールの3行で感情説明を描写に変える。1シーン1ゴールで分割する。
この3ステップを実装したテンプレートの全パターン——ジャンル別の記入例とシーンタイプ別の演出指示はBL Prompt Kit(BOOTH)に収録している。キャラ設定を一元管理して、GrokにもChatGPTにもワンクリックで渡せるツールはキャラノート(β)で開発中。キャラ崩壊の構造的な解説はnoteでも公開している(note版はこちら)。
CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
進捗や先行アクセスの案内はCharaNote公式で。