「嬉しかった」「驚いた」「思わず笑った」——AIに小説を書かせると、感情表現がこの3パターンに収束していきます。
情景描写も同じです。「柔らかな光が差し込む」「静寂に包まれた」「冷たい風が頬を撫でた」。どの作品を読んでも同じ風景が広がります。
「もっと豊かな語彙で書いてください」とプロンプトに追加しても、出力はほぼ変わりません。語彙が貧弱なのはAIの能力不足ではなく、プロンプトの設計の問題です。
この記事では、AIの語彙の幅を構造的に広げる5つのプロンプト設計と、そのまま使えるテンプレートを紹介します。
AIが同じ表現を繰り返す3つの原因
「豊かに書いて」が効かない構造的理由
ChatGPTやClaudeに「語彙豊かに」「表現力のある文章で」と指示しても、ほぼ効果がありません。
理由は単純。「豊かに書いて」は方向の指示であって、具体的な制約ではないからです。AIは「豊かとは何か」を解釈する必要があり、結果的に「それっぽい装飾語を増やす」という反応を返します。
「美しい月が空に輝いていた」→「銀色に輝く美しい月が静かな夜空に神秘的に輝いていた」
形容詞が増えただけで、語彙は広がっていません。
頻出トークンに引き寄せられる仕組み
LLM(大規模言語モデル)は、次に来る確率の高いトークン(単語の断片)を選ぶ仕組みで動いています。「悲しい」場面では「涙」「震える」「唇を噛む」が高確率で選ばれます。
この仕組み自体は自然な文章を生成するために必要ですが、創作小説では「あるある表現」の量産につながります。
文脈が長くなると語彙が狭まる
長編を書いていると、序盤に出した表現がAIの「お手本」になります。
3章で「唇を噛んだ」と書くと、5章でも7章でも登場人物が唇を噛み始めます。AIが前の文脈を参照して「この作品ではこう書く」と学習してしまうためです。
語尾や表現が同じになる問題の対策でも、この現象を詳しく扱っています。
語彙力を引き出す5つのプロンプト設計
ここからが本題です。語彙を広げるために有効な5つのプロンプトテクニックを、具体例とともに解説します。
1. 禁止リストで「逃げ道」を塞ぐ
最も即効性があるのが「禁止リスト」です。AIが頼りがちな表現を明示的に禁止することで、別の語彙を探させます。
【禁止表現リスト】
以下の表現は使用禁止です。別の表現で代替してください。
- 「思わず」「気づけば」「いつの間にか」
- 「心臓が高鳴る」「鼓動が速くなる」
- 「唇を噛む」「拳を握る」
- 「柔らかな」「穏やかな」「静かな」
- 「〜のような気がした」「〜かもしれないと思った」
この禁止リストを入れるだけで、AIは普段使わない語彙を引き出す必要に迫られます。
禁止リストなし 藍原は思わず息を呑んだ。心臓が高鳴るのを感じながら、上村の横顔を見つめていた。穏やかな表情の奥に、何かを隠しているような気がした。
禁止リストあり 藍原は息を止めた。三秒。上村が教本のページをめくる指先だけが動いている。その横顔に、いつもの間抜けな笑みがない。口元が引き結ばれている。何かあった——それは推測ではなく、確信だった。
禁止されたことで、AIは「思わず息を呑む」の代わりに「息を止めた。三秒。」という具体的な動作を選びました。語彙が「感覚語」から「動作語」に切り替わっています。
2. 参照文体の特徴を分解して指示する
AIは学習データに含まれる多様な文体を持っています。それを引き出すには、具体的な参照点を示します。
【文体参照】
以下の文体的特徴を取り入れてください。
- 日常の物を使った意外な比喩(「退屈が水たまりのように溜まっていく」のような)
- 短文と長文のリズム交代: 3語の文と30語の文を交互に
- 体言止めの効果的な使用
ポイントは「○○の文体で書いて」ではなく、その文体の特徴を分解して指示すること。「村上春樹っぽく書いて」と言うとAIは「やれやれ」を入れたがりますが、特徴を分解すれば実質的な文体の豊かさを引き出せます。
比喩表現をさらに磨きたいなら、AI小説の比喩・表現力を上げるコツも併せて読むと効果的です。
3. 五感指定で描写の幅を強制する
語彙が貧弱になる原因の一つは、視覚偏重です。AIは「見える」描写に頼りがちで、音・匂い・触感・味の描写が薄くなります。
【五感ルール】
各シーンには最低3つの感覚を含めること。
- 視覚(色、光、形)
- 聴覚(音、声のトーン、沈黙)
- 触覚(温度、質感、圧力)
- 嗅覚(匂い、空気の変化)
- 味覚(味、口内の感覚)
今回のシーンでは特に「聴覚」と「触覚」を重点的に使うこと。
五感指定なし 教習所の待合室は明るかった。壁のポスターが色褪せている。上村が隣の椅子に座った。
五感指定あり(聴覚・触覚重点) 番号札を呼ぶアナウンスが、スピーカーの割れた音で繰り返されている。プラスチックの椅子が上村の体重で軋んだ。エアコンの風が首筋にあたる。教本のインクの匂いが、かすかに。
視覚以外の感覚を強制されたことで、語彙のバリエーションが一気に広がります。
AI小説で地の文を豊かにする方法では、感覚描写をさらに深く掘り下げています。
4. 類語展開を先にやらせる
本文を書かせる前に、キーとなる感情・状況の類語を列挙させます。AIの語彙プールを「暖機運転」する手法です。
【事前ステップ: 類語展開】
本文を書く前に、以下の感情について20個の表現バリエーションを
列挙してください。
「焦り」を表現する方法を20通り。ただし心情説明(「焦った」
「焦りを感じた」等)は含めず、動作・身体反応・セリフ・行動
だけで表現すること。
列挙が終わったら、そのうち3つを選んで本文に組み込んでください。
この「列挙 → 選択 → 使用」の3ステップが重要です。AIに選択の余地を与えることで、最初に浮かぶ「最も確率の高い表現」以外にも手が伸びます。
BL Prompt Kitの「演出ノート」方式——本文を書く前にキャラの心情を分析させる手法——と同じ原理です。出力の前に思考させることが語彙を広げる鍵になります。
5. 演出ルールで「説明」を「描写」に変える
「語彙力」の問題に見えるものの多くは、実は説明と描写の区別がついていないことが原因です。
BL Prompt Kitの演出ルールは、感情を「説明」ではなく「描写」で見せる手法。これをプロンプトに組み込むと語彙が劇的に変わります。
【演出ルール】
- 感情は説明しない。表情・沈黙・動作・セリフだけで表現する
- 「嬉しかった」「悲しかった」のような心情説明は禁止
- 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする
- 読者が自分の心の中で感情を「生成」するように設計する
演出ルールなし 藍原は上村のことが気になっていた。いつも間抜けな上村が、今日は珍しく真剣な表情をしていて、それが藍原の胸を締めつけた。好きなのかもしれない、と思った。
演出ルールあり 藍原は教本を閉じた。3ページしか進んでいない。 上村が路上教習のルートをマーカーでなぞっている。蛍光ペンのキャップが外れたまま、テーブルに転がった。 「そこ、左折じゃなくて右折」 声に出してから、覗き込んでいたことに気づいた。上村が顔を上げる。距離が近い。蛍光ペンの匂いがした。 「あ、ほんとだ。ありがとう」 上村が笑った。いつもの間抜けな笑い方ではなかった。それだけのことなのに。
「好きなのかもしれない」という説明が消え、代わりに動作と感覚の描写が積み重なっています。使われている語彙の種類が格段に増えました。
AI小説がAI臭くなる原因と直し方でも、演出ルールの効果を詳しく解説しています。
テンプレート集 — コピペで即使える語彙強化プロンプト
基本テンプレート(汎用)
あらゆるジャンルに使える語彙強化プロンプトです。本文生成の冒頭に貼り付けるだけで使えます。
【語彙強化ルール】
1. 禁止表現: 「思わず」「気づけば」「心臓が高鳴る」「唇を噛む」
「柔らかな」「穏やかな」「静かな」「〜のような気がした」
2. 五感ルール: 各シーンに視覚以外の感覚(聴覚・触覚・嗅覚の
いずれか)を最低1つ含めること
3. 演出ルール: 感情は説明しない。動作・表情・セリフ・沈黙で
表現すること。「〜と思った」「〜と感じた」は使わないこと
4. リズム: 短文(10字以下)と長文(40字以上)を交互に配置する
こと。同じ長さの文が3つ以上続いてはいけない
恋愛シーン向けテンプレート
恋愛・BL・百合など、感情の動きが重要なジャンル向けです。
【恋愛シーンの語彙強化ルール】
1. 禁止表現: 「ドキドキ」「胸が苦しい」「心臓が止まりそう」
「顔が熱くなる」「目を逸らす」「意識してしまう」
2. 代替方針: 身体の末端(指先、つま先、耳たぶ)の小さな動きで
感情を伝えること
3. 距離感: 物理的な距離(何センチ、何歩)を具体的に書くこと
4. 沈黙の設計: 「……」の長さに意味を持たせる
(1文字=短い間、6文字=長い沈黙)
5. 演出ルール: 感情が高ぶるほど言葉を少なく、動作を小さくする
情景描写向けテンプレート
風景・場面転換・雰囲気の構築に使います。
【情景描写の語彙強化ルール】
1. 禁止表現: 「○○が広がっていた」「○○に包まれた」
「○○が差し込む」「○○が漂う」
2. 動詞: 状態動詞(ある、いる、広がる)より動作動詞を優先。
風景も「動き」で描写すること
3. 固有名詞: 一般名詞(花、木、鳥)ではなく具体的な種名
(沈丁花、ケヤキ、ツグミ)を使うこと
4. 色彩: 「赤い」「青い」ではなく、具体的な色名
(臙脂、群青、若竹色)を使うこと
5. 時間の経過: 光の角度、影の長さ、音の変化で表現すること
AI小説の描写を増やすプロンプトでは、描写不足の原因と対策をさらに掘り下げています。
ChatGPTとClaudeで語彙の傾向が違う
同じプロンプトでも、モデルによって語彙の広がり方が異なります。
ChatGPTの語彙傾向
ChatGPT(GPT-4o以上)は装飾的な語彙を増やす方向に優れています。形容詞・副詞のバリエーションが豊富で、文を華やかにする力があります。
一方で、動詞の語彙が弱い傾向があります。「見る」「思う」「感じる」に収束しやすいため、禁止リストでこれらを塞ぐと代替表現を探す過程で語彙が広がります。
Claudeの語彙傾向
Claudeは「行動で語る」描写が得意で、動詞の選択が具体的になりやすい傾向があります。「見る」ではなく「目を細める」「視線を落とす」を自然に選びます。
弱点は反復耐性です。同じ会話を長く続けると、序盤に使った表現パターンを使い回し始めます。章ごとにプロンプトをリセットする(新しいチャットで続きを書く)と改善します。
使い分けの実践
「語彙の幅を広げたい」が目的なら、まずClaudeで本文を生成し、ChatGPTで推敲するという2段階が効果的です。Claudeの動詞と動作描写の強みで骨格を作り、ChatGPTの装飾力で仕上げる。両方の語彙プールを活用できます。
まとめ
AIの語彙が貧弱に見える原因は、AIの能力不足ではなくプロンプトの設計にあります。5つのテクニックを振り返ります。
- 禁止リスト — 定番表現を塞いで別ルートを開く
- 参照文体 — 文体の特徴を分解して指示する
- 五感指定 — 視覚以外の感覚を強制する
- 類語展開 — 本文の前に語彙を棚卸しさせる
- 演出ルール — 「説明」を「描写」に転換する
どれも「AIに考えさせてから書かせる」という共通の原理に基づいています。出力の前に思考のステップを挟むことで、語彙の選択肢が広がります。
この記事で紹介したテンプレートは、BL Prompt Kit(BOOTH)のフルキットに含まれる演出ルール・口調キープの仕組みを、語彙強化向けにアレンジしたものです。フルキットにはシーン生成・キャラ管理のテンプレートも揃っています。
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CharaNote開発日記
「AIに口調を守らせたい」——この記事で紹介したテンプレートを、もっと直感的に管理できるツールを作っています。
CharaNoteは、キャラ設定シートをAIが読める形式で保存し、どのAIツールにもワンクリックで渡せるキャラ管理アプリです。現在クローズドβに向けて開発中。
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